【ニュースリリース】第6回「バイオインダストリー大賞」受賞者決定! | 一般財団法人バイオインダストリー協会[Japan Bioindustry Association]
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【ニュースリリース】第6回「バイオインダストリー大賞」受賞者決定!

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一般財団法人バイオインダストリー協会

第6回「バイオインダストリー大賞」受賞者決定!

 (一財)バイオインダストリー協会(会長:阿部 啓子)は、我妻 利紀 氏(第一三共(株) 執行役員 オンコロジー第一研究所 所長 兼 ヘッドオブグローバルオンコロジーリサーチ)を代表者とする第一三共(株) 技術開発研究チームの「新世代抗体薬物複合体DXd-ADC技術の開発」業績に対して、第6回「バイオインダストリー大賞」を贈ることを決定しました。

「バイオインダストリー大賞」は、2017年、(一財)バイオインダストリー協会が30周年を迎えるのを機に、次の30年を見据えて "最先端の研究が世界を創る―バイオテクノロジーの新時代―"をスローガンにスタートしたもので、バイオインダストリーの発展に大きく貢献した、または、今後の発展に大きく貢献すると期待される顕著な業績を表彰します。

東京工業大学名誉教授・元学長 相澤 益男 氏を選考委員長とする13名の委員からなる選考委員会による厳正な審査を経て、受賞者1件を決定しました。

なお、贈呈式・受賞記念講演会は来たる10月12日(水)、国際的なバイオイベント"BioJapan 2022"の会場(パシフィコ横浜)にて行われます。詳細につきましては、追ってご案内いたします。

< バイオインダストリー大 賞 受 賞 者 >

(敬称略、年齢は2022.4.1現在)

受賞者 所属・役職 年齢
我妻 利紀 第一三共(株) 執行役員
 オンコロジー第一研究所 所長 兼
ヘッドオブグローバルオンコロジーリサーチ
56
阿部 有生 第一三共(株)
オンコロジー第二研究所 所長
51
内藤 博之 第一三共(株)
創薬化学研究所 グループ長
51
中田 隆 第一三共(株)
オンコロジー第一研究所 主任研究員
47
扇谷 祐輔 第一三共(株)
オンコロジー第二研究所 副主任研究員
38

<受賞業績>

「新世代抗体薬物複合体DXd-ADC技術の開発」

我妻利紀氏をはじめとする第一三共㈱の技術開発研究チームは、抗がんバイオ医薬品の自社創出に挑戦し、画期的な薬物リンカーの設計開発を基に、新規DNAトポイソメラーゼI阻害剤「DXd」を抗体から病巣患部で効果的に遊離させる、抗体薬物複合体「DXd-ADC」合成技術を確立し、「エンハーツ®」の創薬に成功した。エンハーツ®は、転移性HER2陽性乳がん患者を対象とした臨床試験において圧倒的に優れた薬効を示し、日米で発売、欧州でも承認を取得した。さらに、HER2陽性の胃がんについても効果が認められるなど、本DXd-ADC技術は、抗体を変えることで、様々なADCを創出でき、複数のADCの開発が現在も進行中である。本業績は、グローバル市場で大きなインパクトを示す画期的なADC薬の創製に成功した日本発の創薬であり、今後、治療困難であった多くのがん治療に変革をもたらすと共に、がん以外の重篤な疾患の治療にも光明がさすことと期待される。国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与する、バイオインダストリー大賞にもっとも相応しいと高く評価された。

大賞選考委員会

※五十音順、敬称略

(委員長)

相澤 益男  東京工業大学 元学長、科学技術国際交流センター 会長 

(委員)

太田 明徳  中部大学 総長補佐、東京大学 名誉教授
加賀 邦明  そーせいグループ(株) 取締役
五條堀 孝  アブドラ国王科学技術大学 特別栄誉教授
小安 重夫  理化学研究所 理事
戸田 雄三  元 富士フイルム(株) 取締役副社長・CTO、藤田医科大学 教授
松田 譲   加藤記念バイオサイエンス振興財団 名誉理事
松永 是   海洋研究開発機構 顧問
宮田 満   (株)宮田総研 代表取締役
三輪 清志  バイオ産業情報化コンソーシアム 顧問
室伏きみ子  お茶の水女子大学 名誉教授、前学長
山崎 達美  実験動物中央研究所 理事
米原 徹   東レ(株) 技術センター 顧問

<バイオインダストリー大賞受賞者 略歴(敬称略)>

◆受賞者 我妻 利紀(あがつま としのり)
第一三共(株) 執行役員
オンコロジー第一研究所 所長 兼 ヘッドオブグローバルオンコロジーリサーチ

略歴

1989年    東北大学 薬学部 薬学研究科 卒業
1991年    東北大学 大学院 薬学科 博士課程前期 修了
1991年    三共(株) (現第一三共(株)) 入社
1994年~1995年    MRC Collaborative Centre, London, UK 客員研究員
1995年~1996年    東京大学 医科学研究所 感染症研究部 客員研究員

主な受賞・栄誉

2019年    第4回JBDA創薬大賞

◆受賞者 阿部 有生(あべ ゆうき)
第一三共(株) オンコロジー第二研究所 所長

略歴

1994年    東京大学 農学部農芸化学科 卒業
1996年    東京大学 大学院 農学生命科学研究科 修士課程 修了
1996年    三共(株) (現第一三共(株)) 入社
2007年~2009年    ハーバード大学医学部 細胞生物学科 客員研究員

◆受賞者 内藤 博之(ないとう ひろゆき)
第一三共(株) 創薬化学研究所 グループ長

略歴

1993年    九州大学 薬学部製薬化学科 卒業
1995年    九州大学 大学院 薬学部薬学研究科 修士課程 修了
1995年    第一製薬(株) (現第一三共(株)) 入社

主な受賞・栄誉

2000年    日本薬学会医薬化学部会MCS優秀賞
2019年    日本薬学会医薬化学部会賞

◆受賞者 中田 隆(なかだ たかし)
第一三共(株) オンコロジー第一研究所 主任研究員

略歴

1998年    慶応義塾大学 理工学部 化学科 卒業
2000年    慶応義塾大学 大学院 理工学研究科 修士課程 修了
2000年    三共(株) (現第一三共(株)) 入社

主な受賞・栄誉

2019年    日本薬学会医薬化学部会賞
2022年    2021 Highly Cited Review Award for CPB

◆受賞者 扇谷 祐輔(おおぎたに ゆうすけ)
第一三共(株) オンコロジー第二研究所 副主任研究員

略歴

2006年    大阪大学 薬学部薬学科 卒業
2008年    大阪大学 大学院 薬学研究科 博士前期課程 修了
2008年    第一三共(株) 入社
2017年~2019年    米国ワイルコーネルメディカルカレッジ 小児科 リサーチフェロー

主な受賞・栄誉

2019年    日本薬学会医薬化学部会賞

【受賞業績と受賞理由(詳細)】

第一三共株式会社の我妻利紀氏をはじめとする技術開発研究チームは、抗がん剤やバイオ医薬品の多くを海外からの輸入に依存している我国の状況を打破すべく、国産の抗がんバイオ医薬品の自社創出に果敢に挑戦し、新たなDXd-ADC技術開発に成功、本技術を用いた抗体薬物複合体(ADC)エンハーツ®を創製した。本バイオ医薬は、HER2陽性乳がん患者で劇的な腫瘍縮小と効果の持続性が世界的に認められ、2020年に日米、2021年に欧州で上市された。米国では「画期的治療薬」指定を受けている。また、HER2陽性胃がん患者の三次治療においても、化学療法に比して有意な奏効率の上昇と延命効果が初めて示され、2020年に日本、2021年に米国で販売承認された。
 抗体薬物複合体(ADC)は、リンカーを介して抗体と薬物を結合させたバイオ医薬品で、がん細胞などの病巣に発現している標的抗原に特異的に結合し、薬物を直接ターゲットに送り込むことで、薬物の全身曝露を抑えつつ、標的となる病巣を選択的に攻撃する薬である。薬物抗体比(抗体1個あたりの薬物結合数)の向上、血中安定性、標的病巣における薬物の選択的切断性と活性の持続性、などが大きな課題であった。本技術開発研究チームは、自社固有のエキサテカン誘導体の知識を駆使し、新規の生物活性評価プロセスを考案、エキサテカンがADC搭載薬物として優れていることの発見から、最終的な遊離薬物DXd(新規DNAトポイソメラーゼI阻害剤)および独創性に富む構造を有し、圧倒的に優れた薬効を示しうる薬物リンカーのデザインに成功した。この画期的な薬物リンカーの設計開発を基に、遊離薬物となる新規DNAトポイソメラーゼI阻害剤「DXd」を抗体から病巣患部で選択的かつ効果的に遊離させるDXd-ADC技術を確立した。
 DXd-ADC技術の特長(高い薬物抗体比、安定なリンカー、バイスタンダー抗腫瘍効果など)から、国産唯一かつグローバル市場で大きなインパクトを示す画期的なADC薬の創製と供給が実現したことで、多くの患者へ新しい治療手段の提供を可能にしただけでなく、バイオファーストを標榜する技術立国日本の存在感を国際社会において改めて大きく示すこととなり、社会的に大きな意義をもたらすイノベーションといえる。経済的な観点でも、エンハーツ®は、2021年4月~2022年3月の通年で650億円のグローバル製品売上を達成。長期の売上予測として、アナリストのコンセンサス(平均値)では、2026年の製品売上予測を約4,500億円規模と算出している。
 また、本技術は薬物の構成要素である抗体を変えることで様々なADCを創出でき、治療困難であった多くのがんなど幅広いがん種をターゲットにした複数のADCの開発が現在も進行中である。今後、治療に変革をもたらすと共に、がん以外の重篤な疾患の治療にも光明がさしていくものと考えられる。国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与するものであることから、バイオインダストリー大賞にもっとも相応しいと選考委員会にて高く評価され、第6回バイオインダストリー大賞を贈呈するに至った。

■ニュースリリースPDF版(553KB)→ award_release_taisho2022.pdf

■第6回バイオインダストリー奨励賞→ 受賞者はこちら