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【ニュースリリース】第7回「バイオインダストリー大賞」「大賞 特別賞」受賞者決定!

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一般財団法人バイオインダストリー協会

第7回「バイオインダストリー大賞」「大賞 特別賞」受賞者決定!

 (一財)バイオインダストリー協会(会長:吉田稔)は、「遺伝子組換えウイルスを用いたがんのウイルス療法の開発と実用化」の業績に対して、藤堂具紀氏(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 先端がん治療分野 教授、東京大学医科学研究所附属病院 病院長・脳腫瘍外科 教授)に第7回「バイオインダストリー大賞」を贈ることを決定しました。

 また、バイオインダストリーの発展のため新しい分野を拓くことに貢献をした、小西健司氏を代表者とする旭化成ファーマ株式会社と産業技術総合研究所の共同研究グループの「コレステロールエステラーゼ大量生産スマートセルの開発」の業績に対して、第7回「バイオインダストリー大賞 特別賞」の授与を決定しました。

なお、贈呈式・受賞記念講演会は来たる10月11日(水)、国際的なバイオイベント"BioJapan 2023"の会場(パシフィコ横浜)にて行われます。詳細につきましては、追ってご案内いたします。

バイオインダストリー大賞 受賞者

(敬称略、年齢は2023.4.1現在)

受賞者 所属・役職 年齢
藤堂 具紀 東京大学医科学研究所
  先端医療研究センター 先端がん治療分野 教授
附属病院 病院長・脳腫瘍外科 教授
62

<受賞業績>

「遺伝子組換えウイルスを用いたがんのウイルス療法の開発と実用化」

藤堂具紀氏は、がんの新しい治療モダリティとして、ウイルスゲノムを遺伝子工学的に改変することで、がん細胞特異的に複製する遺伝子組換えウイルスによる革新的がん治療法を開発し、実用化に向けて日本及び世界を牽引しています。がん細胞の破壊と共に、抗がん免疫を惹起することによって治療効果が高められることを見出し、局所治療が免疫を介して全身に作用し、遠隔のがんにも治療効果をもたらすという、ウイルス療法の「常識」を築きました。世界で初めての脳腫瘍用ウイルス療法薬を開発から実用化まで一貫してアカデミア主導で実施し、アカデミア創薬として製造販売承認を達成した業績は大きなインパクトがあります。遺伝子組換えヘルペスウイルス作製システムも開発し、悪性脳腫瘍だけに留まらず、全ての固形がんへの適用の可能性の道を開き、新しい治療モダリティとしてがん治療の選択肢を拡大する「抗がんウイルス創薬」発展の基盤を築きました。同氏の功績は、国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与すると期待され、バイオインダストリー大賞にもっとも相応しいと高く評価されました。

バイオインダストリー大賞 特別賞 受賞者

(敬称略、年齢は2023.4.1現在)

受賞者 所属・役職 年齢
小西 健司 旭化成ファーマ(株) 診断薬事業部 開発研究部
酵素研究グループ 主任研究員
35
酒瀬川 信一 旭化成ファーマ(株) 診断薬事業部 酵素製品部
営業グループ グループ長
(現 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門)
55
村松 周治 旭化成ファーマ(株) 診断薬事業部 開発研究部
酵素研究グループ 主幹研究員
58
田村 具博 産業技術総合研究所
執行役員/生命工学領域長
58
安武 義晃 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門
主任研究員
46

<受賞業績>

「コレステロールエステラーゼ大量生産スマートセルの開発」

旭化成ファーマ株式会社と産業技術総合研究所の共同研究グループは、生物細胞が持つ物質生産能力を最大限に引き出すスマートセル技術を開発し、体外診断用酵素「コレステロールエステラーゼ」の生産効率を格段に向上させることに成功しました。本研究において、従来の野生株と比べ30倍以上の生産能力を持つ高生産型スマートセルが初めて構築されるとともに、生産工程におけるCO2排出量は従来比約96%削減できるとされています。本研究は、バイオインダストリーの発展のために新しい分野を拓き、新しい価値を創出するものと期待されバイオインダストリー大賞 特別賞に相応しいと評価されました。

大賞選考委員会(五十音順、敬称略)

(委員長)
相澤 益男    東京工業大学 名誉教授・元学長、科学技術国際交流センター 会長

(委員)
大隅 典子    東北大学 大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野 副学長、教授
太田 明徳     中部大学 監事、東京大学 名誉教授
片岡 一則     川崎市産業振興財団 副理事長/センター長
五條堀 孝    アブドラ国王科学技術大学 特別栄誉教授
小安 重夫     量子科学技術研究開発機構 理事長
辻村 英雄     サントリー生命科学財団 理事長
松田 譲      加藤記念バイオサイエンス振興財団 名誉理事
松永 是      海洋研究開発機構 顧問
宮田 満      (株)宮田総研 代表取締役
三輪 清志     バイオ産業情報化コンソーシアム 顧問
室伏 きみ子    ビューティ&ウェルネス専門職大学 学長
          お茶の水女子大学 名誉教授・前学長
吉松 賢太郎    (株)凜研究所 代表取締役社長
米原 徹     東レ(株)技術センター 顧問


バイオインダストリー大賞 受賞者 略歴と授賞理由(詳細)(敬称略)

◆受賞者 藤堂 具紀(とうどう ともき)
東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 先端がん治療分野 教授
東京大学医科学研究所附属病院 病院長・脳腫瘍外科 教授

【略歴】
1985年    東京大学医学部医学科 卒業
1994年    医学博士(東京大学)
1985年    東京大学医学部脳神経外科
1989年    国立病院医療センター 脳神経外科医師(厚生技官)
1990年    ドイツ国 エアランゲン・ニュールンベルグ大学脳神経外科 研究員
1992年    国立病院医療センター(現 国立国際医療研究センター)脳神経外科 復職
1995年    米国 ジョージタウン大学脳神経外科 研究員
1998年    米国 ジョージタウン大学脳神経外科 助教授
2000年    米国 ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院脳神経外科 助教授
2003年    東京大学医学部脳神経外科 講師
2008年    東京大学大学院医学系研究科 特任教授
2011年    東京大学医科学研究所 教授
2023年    東京大学医科学研究所附属病院 病院長

主な受賞・栄誉
2016年    第3回「イノベーター・オブ・ザ・イヤー」
2019年    平成30年度高松宮妃癌研究基金学術賞

【受賞業績と受賞理由(詳細)】
「遺伝子組換えウイルスを用いたがんのウイルス療法の開発と実用化」
 藤堂具紀氏の研究は、ウイルスゲノムを遺伝子工学的に改変し、がん細胞特異的に複製する遺伝子組換えウイルスを用いた革新的がん治療法を開発したものである。がんのウイルスによる治療という新しいモダリティに挑戦し、日本初の抗がんウイルス療法薬で、かつ世界で初めての脳腫瘍用ウイルス療法薬をアカデミア創薬として製造販売承認まで達成した業績は、日本のバイオインダストリーにとって大きなインパクトがある。
 がん治療用ウイルスが治療効果を発揮する機序として、ウイルス複製に伴うがん細胞の直接的破壊に加え、特異的な抗がん免疫が惹起されることを見いだし、局所治療が、免疫を介して全身に作用し、遠隔のがんにも治療効果をもたらすという、ウイルス療法の「常識」を築いた。
 更に、単純ヘルペスウイルス1 型(HSV-1)のゲノムに人為的三重変異を加えて、抗腫瘍効果と安全性を格段に改善させた世界初の第三世代のがん治療用HSV-1(G47Δ)の開発に成功し、日本で前例のないウイルス療法の臨床開発を推進した。G47Δはがん細胞での複製能が増強し、且つ特異的抗がん免疫を強力に惹起するように設計されており、悪性脳腫瘍だけに留まらず、あらゆる固形がんにも有効で、がん幹細胞を効率良く破壊可能な画期的ながん治療用ウイルスである。新しい治療モダリティとしてがん治療の選択肢を拡大するものであり、優れた革新的医療技術と言える。
 また、発明から実用化まで一貫してアカデミア主導で行い、実施製造工程開発を自らのチームで行って国産初のウイルス治験薬をGMP 製造したことも特筆すべきことである。初めてのウイルス療法臨床試験は再発膠芽腫を対象に2009年から実施し、G47Δの脳腫瘍内投与の安全性を証明し、続く医師主導治験では膠芽腫の長期生存を含むG47Δの高い有効性が示されて、2020年12月に製造販売承認申請、2021年6 月に日本初で脳腫瘍に対しては世界初のウイルス療法製品として承認(条件及び期限付)された。現在も、全ての固形がんへの適応拡大のための臨床開発が継続されている。
 BAC プラズミドを活用してG47Δのゲノムに任意の塩基配列を短期間かつ的確に挿入可能な遺伝子組換えヘルペスウイルス作製システムも開発しており、特殊な機能を付加した新規がん治療用ウイルスを次々に作製できる革新的技術として様々な次世代型がん治療用HSV-1の臨床開発も進んでおり、「抗がんウイルス創薬」を発展させる基盤を築いた業績といえる。
 国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与するものであることから、バイオインダストリー大賞にもっとも相応しいと選考委員会にて高く評価され、第7回バイオインダストリー大賞を贈呈するに至った。


バイオインダストリー大賞 特別賞 略歴と授賞理由(詳細)(敬称略)

◆受賞者 小西 健司(こにし けんじ)
旭化成ファーマ株式会社 診断薬事業部 開発研究部 酵素研究グループ 主任研究員

【略歴】
2010年    東京大学 農学部 卒業
2012年    東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 博士前期課程 修了
2012年    旭化成ファーマ株式会社 入社
2023年    北海道大学 農学院 生命フロンティアコース 応用生物化学ユニット 博士課程 修了(博士(農学))

◆受賞者 酒瀬川 信一(さかせがわ しんいち)
旭化成ファーマ株式会社 診断薬事業部 酵素製品部 営業グループ グループ長
(現 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門)

【略歴】
1991年    東北大学 薬学部 薬学研究科 卒業
1993年    東北大学 大学院 製薬化学専攻 博士課程前期 修了
1993年    旭化成工業株式会社 (現旭化成株式会社) 入社
2002年    工学博士 (徳島大学)
2002年~2003年 Max-Planck-Institut für terrestrische Mikrobiologie
2018年~ 九州大学 医学部 非常勤講師

◆受賞者 村松 周治(むらまつ しゅうじ)
旭化成ファーマ株式会社 診断薬事業部 開発研究部 酵素研究グループ 主幹研究員

【略歴】
1988年    名古屋大学 農学部 農芸化学科 卒業
1990年    名古屋大学 大学院 農学研究科 博士課程前期 修了
1990年    旭化成工業株式会社(現旭化成株式会社) 入社
2008年~2009年 大阪大学大学院 歯学研究科 研究生
2010年    学術博士(大阪大学)

◆受賞者 田村 具博(たむら ともひろ)
産業技術総合研究所 執行役員/生命工学領域長

【略歴】
1987年    筑波大学 体育専門学群 卒業
1989年    筑波大学大学院 体育研究科 修了
1993年    徳島大学大学院 医学研究科 修了 (博士(医学))
1994年~2000年 マックスプランク生化学研究所 学術振興会海外特別研究員、博士研究員
2000年    工業技術院北海道工業技術研究所 入所
2022年    産業技術総合研究所 執行役員(兼務:生命工学領域長)

◆受賞者 安武 義晃(やすたけ よしあき)
産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 主任研究員

【略歴】
1999年    北海道大学理学部生物科学科 卒業
2001年    北海道大学大学院理学研究科 修士課程 修了
2004年    北海道大学大学院理学研究科 博士課程 修了
2004年    北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻 産学官連携研究員
2005年    産業技術総合研究所 入所 任期付研究員
2012年    産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 主任研究員

主な受賞・栄誉
2022年 日本抗ウイルス療法学会 塩田賞

【受賞業績と受賞理由(詳細)】
「コレステロールエステラーゼ大量生産スマートセルの開発」
 旭化成ファーマ株式会社と産業技術総合研究所の共同研究グループの研究は、代表的な産業用酵素であるコレステロールエステラーゼを対象として、スマートセルの技術を展開し、格段の生産性の向上を達成したものである。
 これまでの研究では、コレステロールエステラーゼは、発現、活性化と分泌が複雑に絡み合ったメカニズムで生産されているため、一般的な宿主として用いられる大腸菌ではインクルージョンボディを形成することから生産性の向上は難しく、旭化成ファーマ株式会社が保有する生産菌(グラム陰性細菌 Burkholderia stabilis)でも従来の育種法では3倍程度の生産性向上が限度であり、国際競争力の強化に繋がっていなかった。
 旭化成ファーマ株式会社は産業技術総合研究所とNEDOの委託研究および助成事業による共同研究を通してスマートセル技術を活用展開し、従来の育種法では解決できなかった組換えコレステロールエステラーゼの工業的大量生産システムの構築に取り組んだ。コレステロールエステラーゼの生産性に大きく影響する遺伝子群を生産菌の染色体中に見出し、この遺伝子群がプラスミドのコピー数を抑制していることを明らかにした。生産菌の改変と新規プロモーターを採用した合成生物学的手法により、宿主、ゲノム活性化の両面から抜本的に生産量を改善し、血中コレステロールの測定に使用される組換えコレステロールエステラーゼを大量生産するスマートセルを開発した。結果、新規構築したスマートセルが工業レベルで従来の生産性を30倍に増強することを実証した。本研究の成果である組換えコレステロールエステラーゼは2023年中に販売開始する予定であり、また、リパーゼ等の産業上有用な酵素の組換え生産にも応用展開することで、組換え酵素の大量生産も可能となる。
 スマートセルを用いた大量生産システムによって、体外診断用医薬品の原料となる酵素の組換えコレステロールエステラーゼを低コストで提供することが可能となり、今後の国際競争力の強化も期待できる。この業績はバイオインダストリーの根幹のひとつであるタンパク質工学技術の発展にも大きく貢献し、産業用酵素の可能性を大きく広げるものであり、これまでなかった全く新しい発見に基づいて新規な技術を創出した点においてバイオインダストリー大賞 特別賞に相応しいと評価された。

■ニュースリリースPDF版(553KB)→ award_release_taisho2023.pdf

■第7回バイオインダストリー奨励賞→ 受賞者はこちら