バイオエンジニアリング研究会 「2030年バイオ生産の展望~DX・機械化・完全自動化はどうなる―研究から製造まで、データ駆動型バイオマニュファクチャリングの全貌―」 (第78回日本生物工学会大会内シンポジウム)開催報告 | 一般財団法人バイオインダストリー協会[Japan Bioindustry Association]
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バイオエンジニアリング研究会 「2030年バイオ生産の展望~DX・機械化・完全自動化はどうなる―研究から製造まで、データ駆動型バイオマニュファクチャリングの全貌―」 (第78回日本生物工学会大会内シンポジウム)開催報告

2026年9月16日、北海道大学札幌キャンパスにおいて、バイオエンジニアリング研究会協賛のもと、標記シンポジウムを開催した。当日は大講義室に立ち見が出る盛況となり、約300名が参加した。本シンポジウムでは、研究成果を実生産へとつなぐデータ駆動型バイオマニュファクチャリングをテーマに、アカデミア、企業、CDMOなど、それぞれの立場から最新の研究開発と実用化に向けた取り組みが紹介された。

培養データの集積・解析を省力化するDXアプリの開発とその活用事例
大阪工業大学大学院工学研究科 長森 英二 氏
熟練者の経験や勘に依存してきたプロセス開発から、データ駆動型への転換を進めるうえで、データを蓄積する作業自体が負担となる課題に着目。培養データの集積・解析を支援するDXアプリ「BMDS(Bio-Manufacturing lab. Data analysis Supporting system)」の開発・実装について紹介された。BMDSは、装置や実務者ごとに異なる形式で保管されがちな培養データをクラウド上で統合・保管し、比速度解析や作図などの作業を効率化するものである。日常業務で活用することにより、自然にデータが蓄積される仕組みを目指している。培養条件の最適化や流加培養プロセスの構築、DO値のリアルタイム計測を活用した培養の品質管理など、最新の活用事例が報告され、DXを現場に定着させる工夫が示された。

マルチオミクス解析と機械学習に基づく生産性向上因子の探索とバイオ医薬品生産への展開
AGC(株) 清水 敬太 氏、山口 凌平 氏、杉村 政彦 氏、長尾 信義 氏、川野 泰広 氏
マルチオミクス解析、機械学習、ハイスループット実験を組み合わせた、バイオ医薬品の生産性向上因子の探索について報告された。抗体医薬品の生産ホスト細胞であるCHO細胞を対象に、トランスクリプトーム解析の結果を機械学習モデルに入力し、生産性と関連する100以上の候補因子を抽出。さらに、siRNAノックダウンによる一次スクリーニングと、ゲノム編集による二次検証を段階的に実施することで、候補因子の効率的な評価を進めている。特定の仮説や機能アノテーションに依存した事前選別を行わず、再現性のある生産性向上効果を確認した事例が紹介され、データ駆動型の細胞株開発を加速する可能性が示された。

実験自動化による酵素探索の加速と自律型実験システムAutonomous Labへの展開
神戸大学先端バイオ工学研究センター 蓮沼 誠久 氏、(株)島津製作所 田川 雄介 氏
液体ハンドリングロボットを用いた実験プロセスの自動化により、数百から数千規模の酵素ライブラリを対象とした活性評価を高速かつ再現性高く実施するプラットフォームの構築について紹介された。反応条件や基質の多様化、分析装置との連携により、多次元的な酵素機能データを取得し、配列情報と機能データの関係性を解析することで、従来の注釈に依存しない酵素探索を進めている。さらに、ロボティクス、AI、データ解析を統合し、仮説生成から実験設計、実行、評価、次の実験提案までを繰り返す閉ループ型の自律型実験システム(Autonomous Lab)への展開が示された。ベイズ最適化や機械学習を活用した探索効率の向上が期待される。

生命科学研究の完全自動化への挑戦 ― 双腕ロボット×AIによる自律的科学実験
東京科学大学 加藤 月 氏、落合 幸治 氏、神田 元紀 氏
生命科学研究における自動化の現状と、完全自動化に向けた課題が提示された。近年、スクリーニングの自動化に加え、研究開発のドライ・ウェット両工程を一体化した自動化や、AIによる知的作業の支援が進展している。一方で、実験操作そのものを自動化するだけでは、研究全体の無人化には至らない。仮説を実行可能な計画へ落とし込む作業、装置間の試料搬送、消耗品の補充、エラー監視や復旧など、実験の前後を支える周辺工程が依然として人手に依存しているためである。これらの課題に対し、実験ロボットによる高精度な操作と、フィジカルAIによる搬送・監視・復旧などを組み合わせることで、研究の全工程を切れ目なく自律化する方向性が示された。

SARS-CoV-2ゲノムに学ぶフルリモート研究のその後 ― データ駆動型リモートサイエンスの実証と課題
日本バイオデータ(株)・大阪大学大学院工学研究科 松田 朋子 氏、緒方 法親 氏、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 内田 和久 氏
SARS-CoV-2ゲノム解析を通じたフルリモート研究の進展と課題が報告された。次世代シークエンシング技術の普及により膨大なゲノムデータが公開される一方、サンプリングや実験時のバイアス、アノテーションの誤り、メタデータの不足など、データ品質にはばらつきがある。適切なキュレーションを行わずに自動処理に依存すると、解析上のアーティファクトにつながる可能性があることが指摘された。演者らは、2020年のパンデミック初期からSARS-CoV-2ゲノム配列データの解析に取り組み、現在も公共データベースからデータを継続的に収集・更新している。講演では、2025~2026年に登録された病原体配列データを用い、地域別・時系列での系統頻度の推移や、現行のワクチン抗原株に対する流行株の系統的位置づけを評価した取り組みが紹介された。

今回のシンポジウムを通じて、バイオ生産の高度化には、データの蓄積・解析、実験の自動化・自律化、そしてデータ品質の確保を一体的に進めることが重要であると示された。研究室から製造現場まで、それぞれの技術や知見をつなぎ、実用化に向けた課題を共有する産学の連携が、今後ますます求められる。バイオエンジニアリング研究会では、こうした情報共有に加え、最先端の設備や技術を実際に体感する見学会(下記)も予定しており、現場に根ざした交流を通じた社会実装の促進を目指している。

バイオエンジニアリング研究会 2026年度「見学会」3企画のご案内

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