第2回バイオインダストリー大賞受賞、富山県薬事総合研究開発センター 髙津 聖志 所長 インタビュー

大賞・奨励賞

更新日:2018年11月28日

17_award_logomark-thumb-151x205-2626.jpg2017年、(一財)バイオインダストリー協会(JBA)は、創立30周年を迎えたのを機に、次の30年を見据えて、"最先端の研究が世界を創る―バイオテクノロジーの新時代―"をスローガンに、「バイオインダストリー大賞」「バイオインダストリー奨励賞」を創設した。第2回となる今年度も、6月に大賞、7月に奨励賞の選考委員会が開催され、大賞は富山県薬事総合研究開発センター 髙津 聖志 所長が、奨励賞には10人の研究者が選出された。
バイオインダストリー大賞・奨励賞事務局では富山県薬事総合研究開発センターを訪問し、「IL-5/IL-5受容体の発見と喘息に対する抗体医薬品の創出」研究の背景と苦労、基礎研究への想いや今後の課題をうかがった。




「若い内に基礎と基盤をきちんと築いて研究する」

◇ブレ-クスルーは、IL-5 に相当する仮想分子が存在するという信念

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◆この度の受賞、おめでとうございます。一言ご感想をお願いします。

髙津:ありがとうございます。第2回バイオインダストリー大賞を受賞し、大変嬉しいです。また、光栄に思います。自分達がこれまでやってきたことを認めていただき、しかも研究成果が患者さんのベネフィットにつながるとしたら、基礎の研究者として大変嬉しいことです。私も、また私と研究をともにした大阪大学、熊本大学、東京大学の弟子や共同研究者も喜んでくれると思いますね。これまでご協力いただいた関係者に心より感謝します。

◆ 今回の受賞業績である"IL-5およびその受容体の同定と機能解析" の研究で、ブレークスルーを遂げられた一番のポイントは何だったのでしょうか?

髙津:多分、大阪大学時代の研究スタート当初からIL-5に相当する仮想の分子(当時はT 細胞由来B 細胞増殖分化因子、T cell-replacing factor、TRFと呼称)が存在することを信じさせる強い実験結果を持っていたこと、動物に抗体をつくらせることが元々得意だったのがバックにあったことです。求める活性分子の本体や構造が分からない時に、リガンド(IL-5)やそのレセプターに対する単クローン抗体を作出できたのが一番のポイントです。経験と信念が決め手であったかもしれません。

◆ 信念を証明するというのは大変だと思いますが、その際に、先生ご自身が注力され、苦労されたことは何でしょうか?

髙津:正攻法で探索してモノの本態を同定しようとしたけれど、それが予想通りに進みませんでした。TRF活性を示すタンパク質を精製しそのアミノ酸配列を決めて、cDNAを単離することを試みましたが、最終的には上手くいきませんでした。その時、研究をどのように進めるか、悩みました。個人的には動物にユニークな抗体をつくらせるのが得意だったので、最後はTRFに対する単クローン抗体の作出にかけました。後に抗TRF抗体はマウスのみならず、ヒトIL-5も中和することが分かりました。最初から活性物質に対する抗体を作出し、タンパク質を精製し、その構造を決定するという方法をとれば、もっと早く、上手く行ったかもしれません。

◆ マウスB細胞分化増殖因子としてのIL-5が好酸球増殖にも関与していることを見いだしたことが大きなポイントではないかと思いますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

髙津:イギリスに好酸球分化因子(eosinophil differentiation factor, EDF)の研究をしていたSanderson先生がおられ、彼が精製しているタンパク質がマウスのB細胞に作用するという話を学会で知りました。すでに我々はTRFに対する単クローン抗体を作出していましたので、その抗体をイギリスの研究者に送ったところ、我々の抗TRF抗体によりEDFの活性が完全に中和されたという連絡を、イギリスからいただいたというのが1つの大きなヒントになりました。1つの分子がEDFとTRF活性を示すと考えました。

もう1つはハーバード大学のAusten教授の研究グループが、特発性好酸球増多症患者の血中に健常人の好酸球の生存を試験管内で維持させる因子があることを見いだしていました。Austen先生の依頼で我々が作製した抗TRF単クローン抗体、今でいうマウスIL-5に対する抗体を送って調べていただいたところ、彼らの見いだしたヒト好酸球生存維持分子の活性が全てなくなった、その活性を中和できたという連絡を受けました。それでIL-5がB細胞だけでなくヒト好酸球にも作用するという確信を持ちました。ちなみにヒトIL-5はヒトのB細胞に作用しないことが明らかにされています。

 第3に、IL-5遺伝子導入(TG)マウスを作出したら、血中にもの凄い好酸球増多がみられたこと。もちろんB細胞の異常増殖もみられましたが、好酸球の増多が著明でした。私はIL-5のB細胞分化因子活性に興味があったので、IL-5が好酸球に作用するというのはあまり嬉しくなかったですね。しかし、共同研究者が好酸球に凄く興味を示し執着しておりました。それが正解でした。IL-5による好酸球増殖・分化の研究を進める必要があると考え、当時自治医科大学におられました須田年生先生と共同研究を開始しました。須田先生らとIL-5による好酸球増殖や分化の研究成果を世界に発信することができました。

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◆ IL-5が好酸球増殖に関与しているということであれば、喘息以外にも好酸球増多症や、その他のアレルギー疾患にも目が向くと思うのですが、なぜ、喘息だったのでしょうか?

髙津:好酸球増多を示すIL-5-TGマウスに抗IL-5抗体や抗IL-5受容体抗体を投与すると血中の好酸球が速やかに健常マウスのレベルにまで減少することから、IL-5が好酸球増多症に関与していることが分かりました。健常マウス、IL-5欠損マウス、IL-5受容体欠損マウスを用いて抗原誘発アレルギーモデルを作出しました。IL-5やIL-5受容体欠損マウスでは気道過敏性を伴う遅発相の反応がみられないことが分かりました。また、健常マウスにおいて、抗IL-5抗体や抗IL-5受容体抗体を投与するとアレルギー性気道過敏性の亢進が抑制されることを見いだしました。アメリカの研究者らもイヌやサルの喘息モデルで、抗IL-5抗体の治療や予防効果に関し、クリアカットなデータを発表しました。従って、好酸球増多が喘息の病態に直接関係しているのであれば、ヒトでも抗ヒトIL-5あるいは抗ヒトIL-5受容体抗体が気道過敏性の亢進を伴う喘息の治療に著効を示すのではないかと思いました。

◇想定外の事象を科学レベルで解決する企業の英知が実用化の鍵

◆ 企業との共同研究で、喘息治療薬として実用化へと導いて行かれたのですが、最も大変だったことは何ですか。また、それを、どう乗り越えてこられたのでしょうか?

髙津:マウスB細胞分化因子の研究を本格的にスタートしてまもなく、私は大阪大学から熊本大学へ移りました。当時、科学研究費等の外部資金が十分に得られなかったこともあり、研究費が不足しがちで研究室の運営は大変でした。また、私の世代は企業からお金をいただいて共同研究を推進するのを良しとしない時代でもありました。産学連携を推進する現在とは全然違う時代背景でした。大変ありがたかったのはオリンパス(株)が熊本大学に研究生を7年間に4人派遣してくださったことです。大学院生や研究生とともに、抗TRF/IL-5抗体や抗IL-5受容体抗体の作出と遺伝子単離を目指しました。共同研究者とインパクトのある研究成果を発表できたことは非常に運が良かったと思います。今でも関係者に深く感謝しています。

 私が東大医科研に赴任直後から、協和発酵工業(株)(現協和発酵キリン(株))から我々の研究室に研究員が派遣され、マウスIL-5のシグナル伝達に関する共同研究をスタートしました。彼は派遣期間終了後、会社に戻られてから、抗ヒトIL-5受容体抗体の開発研究をリードされたと聞いています。我々はヒトIL-5受容体の遺伝子、遺伝子導入細胞等の材料を提供し、抗ヒトIL-5抗体に関する初期開発研究をアドバイスさせていただきました。

抗体開発期間中、大変だったのは協和発酵工業(株)のトランスレーショナルリサーチ推進であったかと思います。開発中に予想外の事態が起こった時、企業として開発を進めるか撤退するかの判断が必要な事態も起こりうるからです。協和発酵工業(株)でも開発途上で大きな判断や決断の時期があったかと思います。抗ヒトIL-5受容体抗体の開発に際しては、先行していた抗ヒトIL-5抗体に関して公表された臨床成績が思わしくなかった時期があり、そうした状況を乗り越えられたのではないかと個人的には理解しています。

開発の成否に係る予想外の事が起こった時、それを科学レベルで解析する技術と英知を有していたというのは協和発酵工業(株)の強みであったかと思います。我々ならどうしたら良いかわからないですからね。我々が協和発酵工業(株)の研究者と共同研究できたのは運が良かったと思います。

その後、呼吸器疾患の医薬品開発に多くの経験を有するMedImmune社や第3相臨床治験に豊富な経験と知見を有するAstraZeneca社が関与したことが、最終的に抗体医薬として上市できた大きな力であったと思います。貢献された多くの関係者に多大な感謝です。

DrTakatsu4_.png◆ 現在、富山県薬事総合研究開発センター所長というお立場でご活躍されているわけですが、IL-5を含め、今後の先生の研究の方向性はどのようなことを目指しておられるのでしょうか?

髙津:IL-5が生体内で何をしているのかということに関し、今でも興味を持っています。確かに抗IL-5や抗IL-5受容体抗体を投与してIL-5を中和しあるいは好酸球を除去すれば喘息の悪化を抑えることができますが、病気としての喘息が治るわけではないですよね。

IL-5は好酸球を増やしますが、好酸球が浸潤する周囲の微小環境も喘息の発症や病態に関係していると思われますので、IL-5が元々どのような作用をしているのか謎です。IL-5の研究は後輩に託し、期待したいです。そのために必要な道具は我々の手元にすべて揃っていますので、利用していただきたい。

 当センターに赴任してからは、天然薬物由来で免疫・炎症を調節する医薬品シーズの探索研究をしています。東洋医学で知られている生薬に西洋医学の解析技術を加えて有効なものを再発掘したいです。今は経鼻粘膜ワクチンに必要かつ有効なアジュバントを探索しています。また、2 型糖尿病の治療につながる化合物の解析もしています。当センターに生薬成分から医薬品探索に向けたサクセスストーリーをつくりたいと思っています。

◇徹底的に再現性を追求し、常にまわりに感謝する

◆ 今回のIL-5 受容体αモノクローナル抗体ベンラリズマブの上市で重症喘息患者には大きな福音になりましたが、先生が研究を進める上で常に心掛けておられることは何でしょうか?

髙津:若い人には、基礎と基盤をきちんと築き、チャンスをみて応用研究するようにして欲しい。今の世の中、ややもすれば応用研究とシーズの探索を目指すところから入ってくるじゃないですか。シーズが何で、どういう薬になるとか求められていますが、基礎と基盤のない人は応用研究の成果を生み出すのが困難であると思います。アメリカ留学中に石坂公成先生に基礎と基盤の重要性を習いました。また、研究を通じて世の中に貢献することを考えるように指導されました。加えて、石坂研におられました兄弟子に厳しくも温かいご指導をいただいた影響が大きかったので、自分の研究方向が定まったように思います。

石坂先生からは、「間違った論文を発表すると世界中の図書館から、論文のページを剥がさなければいけない。そういう論文だけは書いてはいけないよ」と言われていました。共同研究をしていた学生のデータを色々なところで発表する機会がありましたが、その人を信頼できなければ発表はできないですよね。徹底的に再現性を追求する姿勢を若い人に伝えてきたつもりです。また研究活動は一人ではできません。多くの人の支援や指導があって初めて可能になるので、常にまわりの関係者に感謝するという気持ちが必要ですよね。

◇自分が面白いと思うことをやらないと! その分、ブレちゃだめ

DrTakatsu_JBA3.jpg◆ 最後に、JBA では、若い研究者を支援する活動も行っています。次世代を担う研究者たちにメッセージをお願いします。

髙津:やはり自分が面白いと思うことをやらないといけないと思います。これまで、自分がやりたいと思ったこと、好きなことをやってこれたのは非常に運が良かったと思っています。研究を進める際に、ブレちゃいけませんよね。

例えば、蝶々が花から花へ飛んでいくように、ちょっとしんどくなってきたら、隣で結果が出そうなところにパッと研究テーマを変える、そういう癖をつけちゃうのは良くないと思います。

やはり、一度困難を乗り越える努力と頑張りが大事だと思うね。それを乗り越えると別世界が見えます。私がそれを経験できたのは良かったと思いますね。

若手も大いに頑張って、最終的に自分のために頑張り、それが家族のためになり、運が良ければ国のためになるんですよね。基礎研究者は研究を通じて身近な世の中のために貢献できるように目標を持って欲しいです。期待しています。

―心に響くメッセージですね。若い人たちが勇気づけられると思います。今日は、本当にありがとうございました。

(聞き手= JBA 先端技術・開発部  田中雅治)

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