【ニュースリリース】第3回バイオインダストリー大賞受賞者決定!
更新日:2019年7月29日
一般財団法人バイオインダストリー協会
第3回「バイオインダストリー大賞」受賞者決定!
(一財)バイオインダストリー協会(会長:阿部 啓子)は、「海洋分解性を有する生分解性プラスチックの微生物合成系の研究と大量生産技術の開発」の業績に対して、土肥義治氏(東京工業大学名誉教授・理化学研究所名誉研究員)、ならびに(株)カネカの5名の方々を、第3回「バイオインダストリー大賞」受賞者に決定しました。
「バイオインダストリー大賞」は、2017年、(一財)バイオインダストリー協会が30周年を迎えるのを機に、次の30年を見据えて "最先端の研究が世界を創る―バイオテクノロジーの新時代―"をスローガンに、新たにスタートしたものです。バイオインダストリーの発展に大きく貢献した、または、今後の発展に大きく貢献すると期待される顕著な業績を表彰します。
(国研)科学技術振興機構顧問・相澤益男氏を選考委員長とする13名の委員からなる選考委員会による厳正な審査を経て、受賞者1件を決定しました。受賞者には副賞300万円が授与されます。
なお、贈呈式・受賞記念講演会は来たる10月9日(水)、国際的なバイオイベント"BioJapan 2019"の会場(パシフィコ横浜)にて行われます。詳細につきましては、追ってご案内いたします。
< 受 賞 者 >
受賞者 | 年齢 | 所属 |
土肥 義治 (どい よしはる) 氏 | 72歳 | 東京工業大学名誉教授・理化学研究所 名誉研究員 |
塩谷 武修(しおたに たけし)氏 | 69歳 | 元 (株)カネカ |
松本 圭司(まつもと けいじ)氏 | 65歳 | 元 (株)カネカ |
松本 健(まつもと けん)氏 | 59歳 | (株)カネカ 高砂工業所 BDP生産グループリーダー |
藤木 哲也(ふじき てつや)氏 | 57歳 | (株)カネカ R&B企画部兼新規事業開発部 幹部職 |
佐藤 俊輔(さとう しゅんすけ)氏 | 39歳 | (株)カネカ Pharma & Supplemental Nutrition Solutions Vehicle バイオテクノロジー研究所 主任 |
<受賞業績>
「海洋分解性を有する生分解性プラスチックの微生物合成系の研究と大量生産技術の開発」
マイクロプラスチックによる海洋汚染が世界的な社会問題となっている中、海洋分解性を有する生分解性プラスチックへの関心が急速に高まっている。
土肥義治氏は、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の多様な共重合体をC. necatorで微生物合成することに成功するとともに、1997年には、(株)カネカが発見したA. caviaeが産生する生分解性プラスチック(PHBH)の生合成遺伝子群を解析し、その遺伝子を導入したC. necator組換え株により、植物油からPHBHを効率的に生合成できることを明らかにした。
(株)カネカは、生分解性が良好で、かつ、ポリプロピレンのような柔軟性のある世界初のバイオプラスチック(PHBH)を生産するA. caviae FA440株を見出し、その後、土肥義治氏が開発したA. caviae由来の遺伝子を導入したC. necator組換え株をベースに、PHBHの微生物合成による工業的生産技術を構築した。2019年12月には、生分解性プラスチックの生産能力を現在の千トンから5千トンに高める計画を既に表明しており、数年後に現状の100倍となる年10万トンに増大する方針を明らかにしている。
このように、土肥義治氏と(株)カネカは、産官学連携のもと、海洋分解性の高い生分解性ポリマーの大量生産技術を確立し、その業績は、国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与するものであり、バイオインダストリー大賞にもっとも相応しいと高く評価され、第3回バイオインダストリー大賞を贈呈するに至った。
<バイオインダストリー大賞受賞者 略歴、受賞理由>
土肥 義治 氏(どい よしはる)
東京工業大学名誉教授・理化学研究所名誉研究員
◆略歴
1947年 | 富山県高岡市生まれ |
1969年 | 東京工業大学理工学部 卒業 |
1972年 | 東京工業大学工学部化学工学科 助手 |
1984年 | 東京工業大学資源化学研究所 助教授 |
1992年 | 特殊法人理化学研究所 高分子化学研究室 主任研究員 |
2001年 | 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 教授 |
2004年 | 独立行政法人理化学研究所 理事 |
2011年 | 独立行政法人理化学研究所 社会知創成事業 本部長 |
2013年 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター 理事長 |
◆主な受賞・栄誉
2012年 | 文部科学大臣表彰 「生分解性高分子の微生物合成と材料開発に関する研究」 |
2010年 | 高分子学会高分子科学功績賞 「生分解性高分子のバイオ合成と材料設計に関する研究」 |
2004年 | 服部報公会 報公賞 「生分解性高分子の生合成と材料設計に関する研究」 |
2000年 | BioEnvironmental Polymer Society Award「生分解性高分子に関する研究」 |
1993年 | 高分子学会賞「生分解性高分子の合成と評価」 |
塩谷 武修 氏(しおたに たけし)
元 (株)カネカ
◆略歴
1972年 | 京都大学 工学部卒業 |
1974年 | 京都大学 修士課程修了 |
1974年 | 鐘淵化学工業(株)(現 (株)カネカ)入社 |
2009年 | 同社 退職 |
松本 圭司 氏(まつもと けいじ)
大阪大学大学院工学研究科
◆略歴
1976年 | 名古屋大学 農学部卒業 |
1978年 | 名古屋大学 農学部 修士課程修了 |
1978年 | 鐘淵化学工業(株)(現 (株)カネカ)入社 |
2015年 | 大阪大学大学院工学研究科 特任研究員(現 招聘研究員) |
◆主な受賞・栄誉
2018年 | 第27回日本生物工学会 生物工学技術賞「微生物による生分解性ポリマーPHBH製造法の開発」 |
松本 健 氏(まつもと けん)
(株)カネカ 高砂工業所 BDP生産グループリーダー
◆略歴
1983年 | 東京大学 工学部化学工学科卒業 |
1983年 | 鐘淵化学工業(株)(現 (株)カネカ)入社 |
藤木 哲也 氏(ふじき てつや)
(株)カネカ R&B企画部兼新規事業開発部 幹部職
◆略歴
1984年 | 広島大学 工学部卒業 |
1986年 | 広島大学大学院工学研究科 博士課程前期終了 |
1986年 | 鐘淵化学工業(株)(現 (株)カネカ)入社 |
◆主な受賞・栄誉
2018年 | 第27回日本生物工学会 生物工学技術賞「微生物による生分解性ポリマーPHBH製造法の開発」 |
佐藤 俊輔 氏(さとう しゅんすけ)
(株)カネカ Pharma & Supplemental Nutrition Solutions Vehicle バイオテクノロジー研究所 主任
◆略歴
2004年 | 広島大学 大学院先端物質科学専攻科 修了 |
2004年 | 鐘淵化学工業(株)(現 (株)カネカ)入社 |
2013年~2015年 | Westfälische Wilhelms-Universität 客員研究員 |
2015年~ | (株)カネカ 現職 |
◆主な受賞・栄誉
2016年 | 第24回生物工学論文賞 (日本生物工学会) |
2018年 | 第27回日本生物工学会 生物工学技術賞「微生物による生分解性ポリマーPHBH製造法の開発」 |
【受賞業績と受賞理由(詳細)】
土肥義治氏は、1984年東京工業大学資源化学研究所の助教授時代に、当時大きな社会問題になっていた廃棄物処理問題、地球環境保護に対する高分子化学研究の意義を熟考し、生分解性ポリマーの微生物合成の基礎研究を開始した。土肥氏らは、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)生産菌として知られていたCupriavidus necator (旧:Alcaligenes eutrophus)に前駆体となる有機酸等を添加して培養することで多様なPHA共重合体の発酵生産に成功するとともに、共重合組成の制御も可能であることを示した。これらの各種PHA共重合体の詳細な構造解析や物性解析は、その後の生分解性ポリマー研究の発展に大きく貢献した。1997年、理化学研究所において、㈱カネカが発見したAeromonas caviaeのPHBH生合成遺伝子群をクローニングし生合成経路を明らかにした。このことにより分子生物学的アプローチが可能となり、A.caviae由来の遺伝子を導入したC. necator組換え株によってPHBHが植物油から効率的に生合成されることを初めて明らかにした。
(株)カネカのグループは、1991年にPHAの研究を開始し、植物油を炭素源としてバイオプラスチックPHBHを産生する微生物A. caviae FA440株を自社高砂工業所内の土壌より単離した。PHBHは共重合組成に応じて柔軟性が大きく変化し、硬質から軟質まで幅広い物性を示す世界初の優れた生分解性バイオプラスチックであった。FA440株自体では工業生産に適用可能な生産性は得られなかったが、土肥義治氏らの開発したA.caviae由来の遺伝子を導入したC. necator組換え株をベースにして、PHBHの微生物合成技術の開発やその生産菌の工業的な大量培養技術の開発に成功した。また同社には高分子化学の専門家も在籍していたことから社内の複数の部署からなるプロジェクトのもと、共重合組成制御や分子量制御など用途に応じたグレードのPHBH生産技術とともに、生産細胞由来の不純物等を除去するための溶媒を使用しないクリーンな精製プロセスや独自の加工技術を開発、さらに製品の安全性評価などをはじめとして、事業化に必須である様々な技術開発に成功し、PHBHの工業的生産技術を構築した。
マイクロプラスチックによる海洋汚染が世界的な社会問題となっており、生態系への影響が懸念されている中、海洋分解性を有する生分解性プラスチックであるPHBHへの関心が急速に高まりつつある。㈱カネカは、2019年12月に生分解性プラスチックの生産能力を現在の千トンから5千トンに高める計画を既に表明しており、また、数年後には、現状の100倍となる年10万トンに増大する方針を明らかにしている。
このように、土肥義治氏らが1984年に着手した基礎研究と、30年弱にわたる(株)カネカの実用化技術開発が、産官学連携のもと、多様な顧客ニーズを満たしつつ海洋分解性の高い生分解性ポリマーの大量生産技術の確立に結実している。その業績は国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与するものであり、土肥義治氏、ならびに(株)カネカの5名の方々は、バイオインダストリー大賞にもっとも相応しいと高く評価され、第3回バイオインダストリー大賞を贈呈するに至った。
大賞選考委員会
(委員長)
相澤 益男 東京工業大学 元学長、(国研)科学技術振興機構 顧問
(委員) (五十音順 敬称略)
加賀 邦明 三菱ケミカル(株) 顧問
熊谷 英彦 石川県立大学 参与
五條堀 孝 アブドラ国王科学技術大学 特別栄誉教授
高橋 里美 元京都大学大学院農学研究科 客員教授
永井 和夫 中部大学生物機能開発研究所 客員教授
西山 徹 認定NPO法人バイオ未来キッズ 理事長
松田 譲 (公財)加藤記念バイオサイエンス振興財団 理事長
松永 是 東京農工大学 特別招聘教授、前学長
宮田 満 (株)宮田総研 代表取締役、(株)日経BP 医療メディア局アドバイザー
室伏 きみ子 お茶の水女子大学 学長
山崎 達美 中外製薬(株) 顧問
米原 徹 東レ(株) 理事
【バイオインダストリー協会について】
1942年設立の酒精協会を前身とし、発酵工業協会を経て1987年、財団法人バイオインダストリー協会と改称、2011年に一般財団法人に移行した。バイオインダストリー分野の研究開発と産業発展を、産・学・官による連携によって、総合的に推進する日本唯一の組織である。バイオインダストリーに関する科学技術の進歩を通じて、バイオインダストリーおよび関連産業の発展を図り、人々の生活の質の向上に寄与するために、先端技術開発から産業化に至るまでのさまざまな場面で社会に貢献している。企業会員258社、公共会員122組織、個人会員約600人から構成。(2019年4月現在)
【本発表資料についてのお問い合わせ先】
(一財)バイオインダストリー協会 広報部
電話:03-5541-2731 FAX:03-5541-2737
E-mail: award2019(at)jba.or.jp ((at)を@に変換して下さい。)
■ニュースリリースPDF版(480KB)→ award_release_taisho2019.pdf
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