NEDOスマートセルプロジェクト技術セミナー 要旨集
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情報科学を活用した 油脂酵母の油脂生産性及び脂肪酸組成の改変 高久洋暁新潟薬科大学応用生命科学部教授【連絡先】 E-mail: htakaku@nupals.ac.jp 多価不飽和脂肪酸のω-3系及びω-6系脂肪酸は、人間の生体内では合成できないため、必須脂肪酸として知られている。ω-6系脂肪酸は成長、生殖生理を保つのに必須であり、ω-3系脂肪酸は、脳・網膜の働きを保つのに必須である。ω-6系脂肪酸は様々な食材に多く含まれているが、ω-3系脂肪酸を多く含む食材は一部の植物油や魚油に限られるため、意識して摂取しなければ、ω-6/ω-3が上昇して生体内の必須脂肪酸バランスが崩れる。また、ω-3系脂肪酸のα-リノレン酸は、動脈硬化予防効果を有するエイコサペンタエン酸 (EPA) や認知症予防効果を有するドコサヘキサエン酸 (DHA) へ変換されることもあり、世界各国で摂取目安量が決められ、積極的に摂取することが求められている。新興国を中心にω-3系脂肪酸の需要が急増して世界市場規模は拡大しているが、ω-3系脂肪酸の原料である魚油は、乱獲により供給量が減少続けており、需要を賄うだけの供給量を将来確保できない可能性がある。海外では、微細藻類による商業生産が行われ始めているが、生産効率が悪く、価格が魚油由来に比べ数倍と割高であり、市場に十分供給できるものではない。 このような状況を考慮して、我々は、細胞内に乾燥菌体重量の60%以上も脂肪球という形で油脂を高蓄積できる油脂酵母に注目し、ω-3系脂肪酸高含有の新規な油脂酵母の構築を目指している。特に乾燥菌体重量の70%以上の油脂蓄積能をもつ潜在能力の高いLipomyces starkeyiを中心に開発を進めている。実用化、事業化へ向けての課題として、①新規ω-3系脂肪酸の合成経路の導入、②油脂生産性の向上(油脂量、対糖収率の向上)があげられる。本セミナーでは、スマートセル基盤技術を活用した上記2項目への取り組みについて紹介する。 ①脂肪酸組成の改変(ω-3系脂肪酸含有率の向上) ゲノム解析等から油脂酵母L. starkeyiはω-3系脂肪酸としてリノレン酸までしか合成できない。我々はEPA等のリノレン酸よりも不飽和度の高いω-3系多価不飽和脂肪酸を油脂酵母で合成させるため、スマートセル基盤技術の「文献等からの知識の抽出・学習技術」を活用して、ω-3系多価不飽和脂肪酸合成経路の導入、続いてω-3系脂肪酸含有率を向上させるための酵素選択・改変を行い、油脂酵母L. starkeyiでω-3系多価不飽和脂肪酸の生産を可能にし、その含有率を向上させた。 ②油脂生産性の向上(油脂量、対糖収率の向上) 油脂生産性の向上においては、油脂蓄積変異株を取得し1)、オーミクス解析を行うことで得られるデータを活用したスマートセル基盤技術の「発現制御ネットワーク構築技術」を活用して油脂生産を制御する新規因子を見出し、その因子の活用により油脂生産性を約2倍向上させることに成功した。また、野生株と油脂蓄積変異株のゲノム比較解析により原因遺伝子を同定した結果、上記とは異なる油脂生産を制御する新規因子を見出し、その因子の活用により油脂生産性を約2倍向上させることに成功した。 参考文献 1) Yamazaki, H. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 103 (15), 6297-6308 (2019) 7

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