NEDOスマートセルプロジェクト技術セミナー 要旨集
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代謝経路設計技術の開発と実用微生物への技術展開 白井 智量 国立研究開発法人理化学研究所 環境資源科学研究センター 細胞生産研究チーム 副チームリーダー 【連絡先】E-mail: tomokazu.shirai@riken.jp バイオテクノロジー産業において、従来から微生物の「醗酵」を利用した有用化合物の生産は多々行われてきた。近年、微生物の「醗酵」を利用した有用化合物の生産技術が非化石原料の活用技術の1つとして利用されている。植物や光合成微生物などにより炭酸固定されてできた糖などを炭素源として利用し、遺伝子改変された微生物に目的の有用化合物を生産させるというものである。この「合成生物学」を利用した微生物生産技術については欧米が先行しており、多くの汎用化学品については既に発酵生産による製造技術のカタログ化が進んでいる。カタログ化されている汎用化学品の具体的な例として、自動車用燃料を代替するバイオエタノール、ポリ乳酸の原料である乳酸をはじめ、1,3-プロパンジオール、γ-アミノ酪酸、4-アミノ桂皮酸などの汎用ポリマー原料が挙げられる。さらに製造産業へ適用された例として、米国のバイオベンチャーであるGenomatica社と独BASF社が共同で、基幹汎用化合物である1,4-ブタンジオール(BDO)を年間5万トン以上生産することに成功している。有用化合物を微生物に生産させるとき、細胞内の炭素の流れだけでなく、エネルギーの生産・消費や酸化還元のバランスをも含めた『代謝』を最適に設計する技術は必須である。なぜなら細胞内の表現型を理解し、その情報を目的の細胞の代謝設計およびその後の育種に応用できるからである。しかし、1つの細胞内で1,000以上存在する代謝反応を人間の頭だけで考えるのには限界があり、コンピュータによる計算力が必須となる。特に近年においては、ゲノムシーケンス技術と情報処理技術の革新によるアノテーションの迅速化により、ゲノムスケールレベルで全代謝反応をコンピュータ上に記述出来るようになった。つまり、ある環境での微生物細胞の代謝の振る舞いを予測する技術が確立された(ゲノムスケールモデル:GSM)。現在はGSMを用いた細胞の代謝設計から、実際の実験による検証までをシステマティックに行い、ハイスループットに目的化合物の生産性を向上させる研究が盛んである。本プロジェクトにおいても演者らは、ゲノム情報から代謝反応を自動で作成するシステム: GSMジェネレーターを開発した。しかし、既存のGSMでは非天然化合物の生合成経路を予測・設計することはできない。また、宿主細胞以外が持つ代謝反応を利用した設計も困難である。本プロジェクトでは、これらの問題を解決する技術となる代謝設計ツールを開発し、実用微生物へ技術展開した。ここでは2つのツールについて説明する。 BioProV: 人工代謝経路の設計ツール このツールの概要は以下の通りである。 1.KEGG (http://www.genome.jp/kegg/) やBRENDA (http://www.brenda-enzymes.org/) といった代謝反応・酵素反応が格納されているデータベースから、個々の酵素という概念を外し、化学反応パターンだけを記述した。そして、同様の化学反応パターンをひとつの化学反応として再分類化し、コンピュータに学習させた。 2.学習の方法としては、各反応において、前駆体と生成物をSMILESという表記方法で記述し、8

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