NEDOスマートセルプロジェクト技術セミナー 要旨集
11/16

その反応メカニズムをSMIRKSという方法で全て記述した。 3.実際のシミュレーションにおいては、目的化合物をSMILESで記述し、インプットデータとする。そして、それをもとにランダムにかつ網羅的に前駆体を逆合成していく。その逆合成された前駆体の中に、生体内での存在が既知の化合物が出てくるとシミュレーションが成功となる。つまり、その既知の生体化合物を出発物質として、設計された人工代謝反応を実現することができれば、目的の化合物が生合成できる。 なお、京都大学・荒木通啓先生の開発によるM-Path1)もアルゴリズムは異なるがコンセプトは同じで、人工代謝経路を設計するツールとして本プロジェクト内で同様に活躍する。 これらのツールを用い、アルカロイド化合物を合成する新規代謝反応を設計し、実際に実験を行うことで、これらのツールの有効性を検証した。 HyMeP:ハイブリッド代謝設計ツール 既存のGSMでは、宿主細胞が持つ代謝反応の範囲内でしか代謝設計はできない。そこで、宿主細胞以外の生物が持つ代謝反応を網羅的に付加し、目的の化合物を効率良く生産するためのハイブリッドな代謝設計ができるツールを開発した2)。このツールの概要は以下の通りである。 1.KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にある全生物種の代謝反応から、利用する宿主細胞が持つ代謝反応を除いたものをデータベースとして格納する。 2.作成したデータベースから宿主細胞のGSMに接続する反応経路を選び出し、ハイブリッドな代謝経路(HyMeP)を構築する。 3.構築したHyMePを使って目的化合物を最大生産することのできる効率の良い代謝経路を設計する。 HyMePによる理想的な代謝設計図を描いた後には、GSMジェネレーターシステムに適用し、増殖および目的化合物への代謝を共に考慮することでより合理的な代謝設計が可能になる。さらに、実際の株の構築および実試験においてこれらの設計を検証しモデルの高精度化を目指す。 このツールを用いて、大腸菌を含む様々な微生物に実用展開し、理論収率を向上させる代謝設計を提案した。 微生物細胞を用いて有用化合物を効率的に生産させるには、コンピュータ計算による細胞内の最適な代謝経路の設計は必要不可欠である。本講演では、新規な代謝経路を提案するツール:BioProVと、ハイブリッドな代謝設計により有用化合物の効率的な生産を可能にするツール:HyMePを紹介した。この2つを組み合わせることにより、例えば石油由来の非天然の有用化合物を微生物細胞に生産させるための最適な代謝経路の設計が可能になる。今後は、設計された代謝経路を実現する代謝反応を高活性化することが重要となろう。 参考文献1)Araki, M. et al.,Bioinformatics,31(6), 905-911(2015)2)Shirai, T. et al.,Microb. Cell Fact.,15(13), 1-6(2016)9

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る