NEDOスマートセルプロジェクト技術セミナー 要旨集
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体外診断用医薬品酵素コレステロールエステラーゼの 大量生産を目指して 田村 具博 国立研究開発法人産業技術総合研究所 生命工学領域研究戦略部 研究戦略部長 【連絡先】E-mail:t-tamura@aist.go.jp臨床検査薬(体外診断用医薬品)は、健康状態をチェックする、体調不良の原因を調べる、そして治療効果を確認するなどのため、健康診断や病院の診察などで主に使用されており、的確な診断を行うために重要な役割を担っている。 臨床検査薬の1つである生化学検査試薬のほとんどは、臨床検査薬用酵素を主な原料としその基質特異性を活用した酵素反応で検出系が構築されている。酵素はタンパク質であることから目的の酵素生産菌を培養して抽出・精製するという製造方法が一般的であるが、宿主の代謝を制御している場合が多く生産量は限られていることが多い。そのため、酵素生産の工業化プロセスが確立されても高価であり、高純度で安定した品質が求められる臨床検査薬用酵素はさらに高価になる。酵素生産の手段としては、現在では、臨床検査薬用酵素の多くは育種による生産性向上株を樹立し生産する場合や、遺伝子組換え技術を駆使した遺伝子組換え酵素として製造されている場合がほとんどである。 今回演者らは、臨床検査薬に汎用される脂質分析用酵素であるコレステロールエステラーゼ(CEN)を取り上げその生産性向上に向けた研究開発を展開した。CENは、組換え大腸菌での生産が困難で、発現した酵素の大半が不溶化し活性が確認できない。また生産菌Burkholderia stabilisの古典的な育種方法により、CEN生産量が上昇した突然変異株を選択する作業を繰り返したが、野生株に対して生産量が約3.4 倍まで上昇した株しか取得できなかった。このように、従来の遺伝子組換え体化技術や育種方法ではCEN高生産化は難しく、新たな手法を取り込んだ開発が必要であった。 そこで演者らはまずB.stabilis野生株の全ゲノム配列を解読した。野生株ゲノムは3本の環状染色体から構成され、6,895遺伝子がコードされていることが明らかとなった。このゲノム情報を基盤とし、遺伝子発現解析と遺伝子変異解析の異なる解析を並行して実施しながら開発を進めた。 遺伝子発現解析では、様々な培養条件下で発現変動の少ない遺伝子を探索し、新規の構成型プロモーターを複数見出すことに成功した。この新規構成型プロモーター下流にCEN遺伝子を連結することにより、従来CEN発現誘導に必要ではあるが、培地の乳化の原因だった脂肪酸の添加が不要になり、CEN精製工程の簡略化が可能となった。また、CENの発現に着目した発現制御ネットワーク解析によって得られた知見を用いた開発も進行中である。変異解析では、変異原を用いてCEN生産量が変化した変異株を多数取得し、それらのゲノム上の変異点を解析することでCEN分泌に寄与する遺伝子とCEN高生産株を見出した。 上記手法・解析を含め、DBTLサイクルを繰り返して開発を展開した結果、CEN発現量が野生株の約10倍向上した組換え体の作製に成功した。 本講演では、上記CEN発現株構築に向けた取り組みを紹介する。なお本研究は、旭化成ファーマ株式会社との共同研究で得られた成果である。 4

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