NEDOスマートセルプロジェクト技術セミナー 要旨集
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2.OGAB法 長鎖DNAの合成のためには、多数の遺伝子断片を指定した順序や向きに連結可能とする技術が必要である。遺伝子集積には様々な方法が提案されているが、本バイオファウンドリーでは、独自技術である、枯草菌のプラスミド形質転換系を利用した多重遺伝子集積法のOGAB法2)を用いている。OGAB法では、集積対象とする遺伝子断片の末端に3~4塩基の突出断片を準備し、この配列の特異性により隣り合うDNA断片を指定する順序や向きに連結する方法である。特に集積用のプラスミドベクターを含むすべての断片を構成要素が周期的に現れるようなタンデムリピート状に連結し、これを枯草菌のコンピテントセルに取り込ませることにより細胞内で環状化することを特徴とする遺伝子集積法である。タンデムリピートの繰り返しが長ければ長いほど形質転換の効率が上昇するため、如何に長いタンデムリピートライゲーション産物を構築するかがポイントである。長いタンデムリピートの構築のためには、各集積対象の材料ができるだけ等モルに近い比率で存在していることが重要であるが、人手では、ピペッティングの精度などにおいて厳密にDNAのモル濃度を調整することは困難で、これが原因で20個を超えるようなDNA断片の一括集積はほぼ不可能であった。そこで、各DNA断片を遺伝子の機能境界を無視してほぼ同一の長さにデザインし、かつDNAをクローン化する大腸菌用のプラスミドベクターも同一のものを用いることで、全ての材料のDNA断片をクローン化したプラスミドの全長が同一の長さとなるようにした。その結果、プラスミドの濃度を測定することで材料のDNA断片の等モル濃度化を容易に実現できるようにした。さらに、この操作の自動で行う装置(図2中の長鎖DNA合成装置)をプレシジョン・システム・サイエンス株式会社と共同開発することにより、等モル化を人手よりも正確かつ高速に行うことが出来るようになり、50個を超えるDNA断片を一度に連結することが可能となった。 3.長鎖DNA合成バイオファウンドリー 任意の長鎖DNAを構築するためには、化学合成DNAを出発材料としてOGAB法に用いる数 kbまでのサイズのDNA断片を準備する必要がある。従来は、この合成を受託DNA合成会社に委託していたが、50個のDNAを発注した際にそのうちの数個において、合成困難な配列が存在するケースがよくあり、この場合、必要なすべてのDNA断片を準備するのに2カ月という長期間を要していた。本ファウンドリーでは、この部分を見直すために、化学合成から自前で行うようにした。日本テクノサービス株式会社との共同研究により、長鎖DNAの合成に特化した、低コストで200塩基の一本鎖DNAを96本、約1日で合成するDNA化学合成機を開発した(図2)。また、化学合成したDNAを、相補性を利用して張り合わせて伸長するために、新規のPCR方法を開発し、どのような配列であっても3日程度で二本鎖のDNAを準備することが可能となった。これを一旦大腸菌でクローニングし、塩基配列が正しいクローンのみを選択してOGAB法の材料に用いるが、この大腸菌クローニングの工程も、液体分注ロボットによる大幅な自動化を達成した(図2)。これらの研究開発の結果、30 kb程度の長鎖DNAを、1塩基当たり数円のコストで、2週間程度という期間で製造できるようになり、従来の時間コスト、金銭コストの大幅な削減を達成した。 参考文献1)柘植謙爾ら,(バイオテクノロジーシリーズ)スマートセルインダストリー-微生物細胞を用いた物質生産の展望-(久原哲監修), p. 19-25,シーエムシー出版(2018)2)Tsuge,K.et.al.,Scientific Reports,5, 10655(2015)7

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