NEDOスマートセルプロジェクト技術セミナー 要旨集
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第1のステップでは、演者らが独自に開発したALSD法(Adaptive Lambda Square Dynamics)2,3)を用いて、酵素と基質が取りうる様々な複合体構造を原子レベルで網羅的に探索する。第2のステップでは、ALSD法によって得られた原子レベルの複合体構造情報から酵素と基質の相互作用パターンを詳細に解析し、主産物生成量を増加、あるいは副産物生成量を減少させることができると考えられる酵素改変部位を提案する。 本講演では第1のステップ、すなわち酵素高機能化を実現する上での大きなブレイクスルーとなった強力なシミュレーション手法であるALSD法を紹介する2,3)。MDではコンピューター上に酵素と基質、それを取り囲む水分子やイオンなどの溶媒の環境を再現し、現実と同様の時系列変化を追跡していくことで酵素-基質複合体の構造を探索することになる。しかし従来のMD手法は複合体構造を探索するのに多大な計算時間と計算資源を必要とするため、実際の酵素改変研究へ適用することは非常に困難であった。一方ALSD法は、任意に選択した特定の部位(例えば基質)の構造変化を促進させることができるように改良されたMD手法である。現在演者らが行なっている研究では、ALSD法によって酵素ポケット内の基質の構造変化を促進させることにより、主産物、あるいは副産物を生成する際の様々な複合体構造を網羅的に探索し、酵素-基質間の相互作用パターンを詳細に解析することで、数日から1週間程度のシミュレーション時間で酵素改変部位予測を行うことが可能となった。本講演ではALSDの理論的枠組みなどについて紹介し、発表の最後には本手法を適用して酵素機能を向上させた実例(図4)についても簡単に紹介する。 図3(上). 酵素改変部位予測法の2つのステップ 図4(左) 提案された変異体の主産物収率、収量例 参考文献 1) Saito, Y. et al., Sci. Rep., 9(1), 8338 (2019) 2) Ikebe, J., Sakuraba, S. and Kono, H., J. Comput. Chem., 35(1), 39-50 (2014) 3) Ikebe, J., Umezawa, K. and Higo, J., Biophys. Rev., 8, 1-8 (2016) 12

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