NEDOスマートセルプロジェクト技術セミナー 要旨集
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糸状菌を用いた有用タンパク質同時生産制御 志田 洋介 長岡技術科学大学 生物機能工学専攻 助教 【連絡先】E-mail: yshida@vos.nagaokaut.ac.jp 植物バイオマスは、地球上に大量に存在する持続可能なバイオマスである。植物の非可食部分である植物細胞壁を構成する多糖を加水分解(糖化)することで得られる糖は、バイオ燃料の原料となるだけでなく微生物を用いた高付加価値品生産のための炭素源として用いることができる。そのため植物細胞壁の糖化技術は必須のものである。演者らは植物細胞壁を効率的に糖化できる糸状菌由来の酵素「セルラーゼ」に着目し長年研究を進めてきた。これまでに、NEDOプロジェクトにおいて世界トップレベルの糖化能力を持つ酵素の生産菌株の開発に成功している。しかしながら、植物バイオマスの種類によってその細胞壁多糖の構成成分の組成が異なるため、植物バイオマスに合わせた最適な酵素成分で構成された糖化酵素「テーラーメード型糖化酵素」の作出が求められている。 これまでの菌株開発は、過去の論文や研究室で得られた知見に基づいた開発であり、酵素生産量全体のコントロールは可能であるものの、特定の複数の酵素の生産量のみを制御することは困難であった。そこで、本研究開発では対象となる糸状菌の全遺伝子の発現データを大量に準備し、スマートセル設計システムのネットワークモデル構築技術1)を最大限に活用してどの遺伝子がどの遺伝子を制御しているのか、そのネットワークがどのような構造をとっているのかを明らかにするとともに、糖質加水分解酵素群の生産比率を制御する因子を同定することを目的とした(図1)。セルラーゼ生産条件下における全遺伝子発現データを約200サンプル使用し、ターゲット酵素の遺伝子発現に影響を与える可能性のある遺伝子を複数推定した。それら遺伝子の破壊株を構築することによってセルラーゼ生産性、酵素生産比率の解析を行った。その結果、特定のセルラーゼの生産をコントロールしている制御遺伝子を発見することができ、これを活用することで特定の植物バイオマスに対する糖化能力を向上させることに成功した。構築した遺伝子制御ネットワークはプロトタイプであるが、現在得られている成果をフィードバックし、さらなる情報解析を進めてネットワークの高精度化を進めている。現時点においても糸状菌研究者にとって予想することがはるかに困難であった遺伝子が酵素成分の生産バランスに大きな影響を与えていたため、本研究をさらに進展させることで今後も新たな知見が得られることが期待される。また、本研究手法を適応することによって、微生物をモノづくりに活用している企業にとっても有用な知見を得ることが可能である。 1)油谷幸代,第2章 遺伝子発現制御ネットワークモデルの構築,(バイオテクノロジーシリーズ)スマートセルインダストリー-微生物細胞を用いた物質生産の展望-(久原哲監修), p.108-111,シーエムシー出版(2018) 図1 本研究の概要 8

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