いま、医学の分野で遺伝子研究の成果が続々と上がっています。また、遺伝子組換え食品などのバイオビジネスも大いに注目されています。そして、その安全性の問題などが論議されています。

バイオビジネスの発展
 最近、「遺伝子組換え食品」という言葉をよく耳にするようになりました。これは遺伝子の情報を操作することで、本来持っていない新しい特性を付け加えた食品のことを指します。遺伝子組換え食品は、除草剤に負けない大豆や、害虫に強いトウモロコシなど、生産の効率を上げたり、ビタミンAを強化したゴールデンライスなど、特定の栄養価を高めたりするために開発されています。
 また、糖尿病の薬であるインシュリンも、バイオ技術によりヒトホルモンとしてはじめて人工的に合成され、治療に役立てられています。

ゴールデンライス
シンジェンタジャパン(株)提供
 しかし、現在の遺伝子組換え方法では、新しい遺伝子がすでにある遺伝子のどの部分に組み込まれるのかが正確にわからないため、ある特性を加えたつもりが、他の特性の変化が出てしまう可能性もあります。
 政府は遺伝子組換え食品を入念にチェックしたり、遺伝子を組み換えているということを必ず消費者に知らせたりするように義務づけるなど、安全性の確保に力を入れています。

DNA鑑定が学問の可能性を広げる!
 血縁関係を判定するのに、ミトコンドリアDNAが用いられることがあります。前述のようにミトコンドリアDNAは母親からだけ受け継がれるため、血縁関係を調べるのには最適なのです。このようにDNAを使って本人を特定する方法を、DNA鑑定といいます。
いろいろな学問の分野で、DNA鑑定は用いられるようになりました。考古学では遺跡に残された人骨や植物のDNAを調べて、昔の人たちの人種や生活などを正確に推測できるようになりました。生物学でもDNA鑑定で回遊魚の出身地を特定したりしています。
 またDNA鑑定は犯罪捜査の場でも活用されています。ミトコンドリアDNAにかぎらず、DNA全般にはその文字の配列に個人差があります。たとえば、犯罪現場に残された血液や髪の毛からそのDNAを調べれば、犯人を特定することが可能になります。

病気の治療法がわかる!
医者: 「あなたは、このような病気になりやすい傾向がありますからあらかじめ予防しておきましょう。」
患者: 「わかりました。」
 遺伝子やDNAについての謎が徐々に解明されるにつれ、わたしたちの生活のなかにその研究成果が活かされはじめています。特に医学の分野では、遺伝子情報を使った治療の開発が積極的に進められており、最近は、「遺伝子診断」に注目が集まっています。
 遺伝子診断とは、遺伝子のデータから将来かかりやすい病気を見つけるというもの。これにより早い段階から病気を予防できることになり、病気の発症確率を低く抑えられるといったメリットがあります。一方、現在の医学では治療が不可能な病気も発見できるため、診断を受けた人の不安を増幅させてしまうといった問題点も指摘されています。
 また、患者の遺伝子を操作することで病気を治す「遺伝子治療」*についての研究も進んでいます。すでに全世界で数千例の実践があり、一般的には異常な遺伝子を補う働きのある遺伝子を体内に組み込むという方法がとられています。
 ほかにも、病気の原因となる遺伝子のデータを元に、新たな薬をつくる「ゲノム創薬」にも大きな期待が寄せられています。
O-157の顕微鏡写真。
O-157のDNAを調べることで、
感染源を追跡する。
国立国際医療センター研究所山本達男部長提供

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