遺伝子を使った診断や治療や医薬品づくりが世界的規模で進められています。
なかでも遺伝子により将来かかりやすい病気を調べる遺伝子診断は、大きな注目を浴びています。しかし、その導入にはクリアしなければならないさまざまな問題が指摘されています。

病気の治療法や新薬の開発に貢献
 遺伝子研究の成果がもっとも有効に活かされているのは医療の分野です。すでにガンや糖尿病などさまざまな病気の原因となる遺伝子が発見されており、それらの遺伝子を深く研究することにより、病気の治療法が見つかります。
 また、ある特別の病気の人に対して、正常な遺伝子を体内に入れることにより病気を治す「遺伝子治療」も試みられています。

その人に合った薬を選ぶ
この場合、病気の原因となる遺伝子を取り除くのではなく、体の免疫力を増加させる遺伝子を入れることが多いのです。ほかにも、遺伝子情報をもとに薬をつくり出す「ゲノム創薬」*にも世界の注目が集まっています。

どんな病気になるかがわかる?
 遺伝子研究の医療への応用が進むなかで、特に注目されているのが「遺伝子診断」です。
 これは血液などから採取した遺伝子を分析することにより、その人が将来どのような病気にかかりやすいかを調べることです。たとえば、遺伝子診断によって高血圧になりやすいことがわかれば、食事に気をつけるなど、病気の発症を未然に防ぐことに努めることができます。“病気になる前の”予防医療が飛躍的に進歩することになります。
 また、体質なども遺伝子診断から調べることができるので、自分にどんな薬が効きやすいのかもわかります。副作用の可能性のある薬を飲まなければならない場合は、あらかじめ遺伝子診断でその人に副作用が出やすいかどうかを予測できるので、安全に薬を投与できるという利点もあります。このように遺伝子診断の結果により、自分の体格に合った洋服をオーダーするように、自分に最適な薬を選べるようになります。

遺伝子が差別を生む?
 遺伝子診断はきわめて画期的な技術です。しかし、問題点も少なくありません。たとえば、現在の医療では治療できない病気が見つかる可能性もあり、その場合どのように対処すべきかが議論されています。
 また、受精卵や胎児の遺伝子診断により、重大な病気が発見される可能性もあります。診断の精度や治療の確実性も絶対ではありません。
 一方、診断結果によって生命保険に入りにくくなってしまったり、資格などが取得できにくくなったりするといった差別の問題も発生しやすくなります。
 新しい技術が生まれるとき、そこには新しい問題も発生します。遺伝子研究が急激に進み実用化されつつあるいま、人間らしく生きるという倫理の問題、そして差別と個別の問題などが、慎重に議論され検討されていかなければなりません。

遺伝子情報を正しく使うために
 こうした問題に対処するには、生命や科学に対するしっかりとした理念を育てることが必要でしょう。また、個人の人権や健康を守るための法的な整備を図り、科学技術の振興を図る研究・医療機関が遺伝子を取り扱う場合のガイドラインの作成を求める動きもあります。
 わたしたちは、なによりも1人1人が遺伝子に関する正しい知識を持つことが重要だと思います。そして忘れてならないことは、遺伝子診断によって発見される病気は、かならずしも発症するわけではないということです。遺伝子だけが原因で発病する病気はわずかであり、多くの病気は、生活習慣や環境などによって発症の確率が大きく変化します。
 こうしたことを理解した上で、遺伝子診断を前向きに活用する道を開いていくことが大切です。

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