遺伝子研究の発展のために、私たちの体の細胞が役立てられます。医療の向上のためにも、ますますその必要性が高まっています。プライバシーや人権の保護と科学研究の進歩の両方を大切にするような倫理が求められています。

研究の自由とプライバシー
 私たちは、プライバシーの保護と科学研究の進歩を十分に考慮し、適切な対策を講じながら、その研究の意義や方法や成果について評価していきたいものです。
 こうした遺伝子研究との関わりを考える鍵のひとつが倫理です。倫理の重要性が問われるようになったのも、私たちがこれまで抱いてきた人権という考えに、遺伝子研究が深く関わっているからにほかなりません。

世界が議論する医療・研究と倫理
染色体(イメージ)
 倫理にもとづいた円滑な遺伝子研究を行っていくために、世界にはどのような考えがあるのでしょうか?
 さまざまな生命倫理規定があるなかで、早い段階で出されたのは、1964年に世界医師会が人を対象とする医学研究の倫理的原則として採択した「ヘルシンキ宣言」です。この宣言は「医学研究は、すべての人間に対する尊敬を深め、その健康および権利を擁護する倫理基準に従わなければならない」と定めており、「被験者の生命、健康、プライバシーおよび尊厳を守ることは、医学研究に携わる医師の責務である」とも述べています。
 また、ユネスコが1997年に採択した「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」*も重要な意味を持っています。このなかでは、ヒトゲノムを人類の遺産とし、「何人も、その遺伝的特徴の如何を問わず、その尊厳と人権を尊重される権利を有する」と宣言しています。
 これらの宣言を中心に、世界各国で生命科学と倫理に関する議論が行われています。

人権の保護と医療の向上

日本の倫理指針
 世界各国の議論をみると、社会的な法律や制度を公に設けていくべきだという考え方と、個人の自由な意思と判断に任せるべきだという二つの考え方があります。それぞれの考え方の背景には、歴史や文化、宗教などの違いがあります。
 日本では2001年に文部科学省、厚生労働省、経済産業省が三省共同で「ヒトゲノム・遺伝子研究に関する倫理指針」を設け、研究者が個人遺伝情報を扱っていくための明確なガイドラインを示しています。そこでは各研究機関に個人情報漏えいの防御策を講じることを求めるとともに、原則として、提供者が自ら遺伝情報の開示を希望している場合は開示しなければならず、また開示を希望していない場合は開示してはならないとしています。ガンの告知を望まない人がいるのと同様に、病気になる可能性を知りたくないという人もたくさんいるからです。

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