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創薬技術と医薬品の進歩

生命科学の目覚しい発展は、数々の革新を通じて医薬品を大きく進化させてきました。ある特定の疾患の発症に関連する遺伝子あるいはタンパク質を特定し、それらをターゲット(標的)とした科学的、生物学的なアプローチで開発を進めるゲノム創薬はその代表的な例です。

このような創薬技術の発展に伴い、創出される新薬の種類は多様化しており、今までにはなかった新たな範疇に属する医薬品が現れています。

1.ゲノム創薬(Genome medicine)

Genome(ゲノム)とは、gene(遺伝子)とome(ラテン語で「全体」の意)を合成して作られた言葉で、ある生物の染色体に含まれる遺伝情報の全体として定義されています。
具体的には、染色体の全体(正確には父親あるいは母親に由来する半数体の染色体の全体)に含まれる遺伝情報全体です。

ゲノム創薬は、コンピューター解析等によって得られた上記のヒトゲノム情報をもとに、病気や病態に効果を示す新しい医薬品を論理的に研究開発しようとする新しい創薬手法のことです。

同じものを食べても太りやすい人と太りにくい人、また同じような生活をしていても風邪をひきやすい人もいればひきにくい人もいるというように、薬についても同様のことが言えます。
同じ薬を飲んでも効き目の強く出る人もいれば、効き目が弱い人もいます。副作用が出る人もいれば、出ない人もいます。
「体質」と一言で言ってしまえばそれまでですが、これらはすべて、その人の遺伝情報の違いによって現れた特性なのです。

人間一人ひとりが微妙に異なるDNA配列であることから、そのわずかな乱れや差異を読みとり解析し、それがもたらす体質や病気発症へのメカニズムを解明し、ヒトゲノム情報を応用した画期的な薬を作り出そうというアプローチを「ゲノム創薬」といいます。

ゲノム創薬では、経験則や新たな医学的発見を背景に、膨大な数の化合物を合成し、検査し、選択(スクリーニング)していくという過去のこれまでの手法に比べて、医薬品の候補物質として、有効な作用のある化合物を見つけることができる確率が飛躍的に向上することが期待されます。また、従来のアプローチでは見出す事の出来なかった、新たなメカニズムを持つ画期的な医薬品の登場する可能性に大きな期待が寄せられています。

具体的な方法としては、DNAチップバイオインフォマティクスを活用して、疾患関連遺伝子の発症メカニズムを突き止めます。どの遺伝子が原因で発症するかが分かれば、その遺伝子によって作られる物質または、本来の正常な遺伝子によって作られるはずの物質を制御することにより、治療を行うことができます。

疾患のメカニズムを特定してから、新薬候補物質を探索していくゲノム創薬は、従来の偶然に頼るスクリーニング方法に比べて、遥かに効果的かつ、確実な探索法である為、多くの製薬メーカーが注目し、取り組んでいます。

ここでは、以下に抗体医薬、アンチセンス医薬及び分子標的薬について説明します。

(1)抗体医薬(Antibody drug)

人間が本来持つ免疫力を利用し、特定の細胞や組織だけを認識して活性を示す抗体を投与あるいは大量に発生させることにより、病気の症状を抑制することを目的とする薬です。

抗体は体内に進入した異物(抗原)に結合して異物の作用を抑えるタンパク質(抗体タンパク質)で、特定の細胞や組織だけに働く性質があります。
このような人体の反応を「抗原抗体反応」と呼び、このしくみを医薬品としてうまく利用したのが「抗体医薬」です。

ガン細胞の増殖を抑える効果を狙った抗体医薬は患部の殺したい細胞だけをその細胞が有する抗原タンパク質に対応する抗体タンパク質(抗体医薬)を使って、ピンポイントで狙い撃ちできるため、高い治療効果や副作用の軽減が見込めます。このように抗体医薬は、ガン細胞の治療薬として有望視されており、効果的かつ副作用の少ないガン治療が可能になると、期待されています。また、抗体医薬(モノクローナル抗体医薬)は、テーラーメイド医療(個別化医療)に向けた分子標的治療の一つとして、注目されています。

なお、抗体医薬は、タンパク質が主成分であるため、化学的に合成するのが難しく、培養細胞などで生産させる為、コストも高いという問題があります。

抗体医薬の創薬ターゲットは、全世界で最低300?400存在すると推定されていますが、製薬企業にとって非常に有望な分野であり、今後拡大が予想されています。

抗体医薬は副作用が少ないことから、①売上げが見込める、②臨床試験を開始した後に中止になるリスクが少ない、というメリットがあるからです。

(2)アンチセンス医薬品(Antisense Drugs)

アンチセンスはDNA→メッセンジャーRNA(mRNA)→タンパク質という流れで遺伝子情報が伝達される途中の遺伝子レベルで機能し、DNAあるいはmRNAに結合することで疾病に関与するタンパク質の合成プロセスを阻害します。

mRNAの塩基配列がわかっていると、アンチセンスRNA(またはアンチセンスDNA)の合成が可能になります。このように、特定の病原ウィルスの遺伝子やガン等の異常な遺伝子の働きを抑え、 遺伝子レベルで病気を治療する目的で開発されたアンチセンスRNA等のことをアンチセンス医薬品といいます。

アンチセンス医薬品は、DNAあるいはmRNA上の特定の配列と結合することで、異常な遺伝子が機能することを遺伝子レベルで防ぎます。
また、アンチセンス医薬品などを用いて、疾患を引き起こす遺伝子の働きを抑える治療を行うことをアンチセンス治療といいます。

アンチセンス医薬品においては、標的とする遺伝子に到達・結合する確実性と、当該物質の安定性が現在の課題であり、それらを向上させる研究が続けられています。
また、アンチセンス医薬品は、遺伝子選択性が高いため、標的に直接作用するので、従来の低分子量の医薬品よりも高い効果と低い毒性を持つとされています。

(3)分子標的薬(Target-based drug)

正常な細胞に対しても攻撃(作用)する従来型の化学療法薬とは異なり、特定の細胞にのみ選択的に攻撃(作用)する新しいタイプの治療薬のことですが、略して、分子標的薬とも呼ばれます。

ここでいう「分子標的」とは、細胞の表面にあるタンパク質(高分子)や細胞内の遺伝子(分子)によって、ターゲットを見分けて攻撃(作用)することを指しています。

特に、抗ガン剤の分野で有望視されているのは、従来の抗ガン剤投与で発現する、正常な細胞をも攻撃してしまうことによる重篤な副作用を防げると期待されているからです。

正常な細胞がガン化して無秩序に分裂・増殖していく仕組みを解明する為の研究が日々世界中で行われており、ガンの増殖にどのような因子やタンパク質が関係しているかについて様々な知見が得られて来ています。

それを医薬品に応用したのが「分子標的薬」であり、抗ガン剤に限らず、今後、「抗体医薬」と共に最も発展する医薬品であるとして、期待されています。
もっとも、分子標的薬は万能ではなく、他の医薬品と併用すると効果が高くなる場合も報告されています。

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