個別技術紹介

Individual Technology

シャーシ株構築技術


蓮沼 誠久
神戸大学先端バイオ工学研究センター

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要旨

先端的なバイオテクノロジーと計算科学を組合せたDBTL型ワークフローを構築し、様々な有用物質を生産する微生物を超高速に構築する技術を開発した。

研究の内容

本PJではバイオベース製品の高効率生産株(微生物)群の樹立に向け、合成生物学と計算科学を組み合わせた「設計(Design)、構築(Build)、試験(Test)、学習(Learn)からなるDBTLのワークフロー」の開発を目指してきた。我々はバイオ産業で求められる有用物質は共通の前駆物質(ハブ化合物)から生合成されていることに着目した。ハブ化合物の生産性が高い株(シャーシ株)の合理的設計に基づく高速育種は、有用物質生産微生物(スマートセル)の開発期間の短縮化に有効である。本研究では、スマートセル プロジェクトで開発した高速微生物育種ワークフロー(スマートセル開発ワークフロー)により従来の開発より極めて短期間(約3~4カ月)でα-ケトグルタル酸またはチロシン高生産性大腸菌シャーシ株を開発した。α-ケトグルタル酸シャーシ株を使って、健康増進効果が知られるテアニンやγ-アミノ酪酸(GABA)、合成樹脂の原料である6-アミノカプロン酸をそれぞれ高生産するスマートセルを作出した。またチロシンシャーシ株を使って、プラスチック等の原料であるp-クマル酸、オピオイド系鎮痛剤の原料であるレチクリン、栄養機能食品であるレスベラトロールをそれぞれ高生産するスマートセルを作出した。シャーシ株を使うことで、従来数年かかっていた微生物開発期間の大幅な短縮に成功した

図1.スマートセル開発ワークフロー

図2.有用物質はハブ化合物を起点として生合成される


産業界などへのアピールポイント

スマートセルを開発するプラットフォームを確立しました。スマートセルPJで開発した要素技術(代謝設計技術,長鎖DNA合成技術,ハイスループット組換え技術、高速・高精度の細胞代謝物測定技術等)を統合的に利用することが可能となり、競争優位性の確立に重要な『超高速微生物株開発』ができるようになりました。

参考文献

1) Vavricka, C.J. et al.: Trends in Biotechnology, 38(1), 68-82(2019)

2) Vavricka, C.J. et al.: Nature Communications, 10(1), 2336(2019)

3) スマートセルインダストリー ―微生物細胞を用いた物質生産の展望―,シーエムシー出版(2018)

関連特許

特願2020-203335「有用化合物を高生産する代謝改変微生物株の構築方法及び代謝改変大腸菌株」発明者:蓮沼誠久ら、出願人:神戸大学・東京大学

最終更新日:2022年11月14日 12:42