個別技術紹介

Individual Technology

HTP微生物構築・評価技術


石井 純
神戸大学先端バイオ工学研究センター

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要旨

莫大な数の微生物の形質転換体(DNA導入株)をセミオートで作出して,その生産性を高速に評価するハイスループット(HTP)微生物構築・評価技術により,スマートセル開発を加速する。

研究の内容

 微生物での有用物質生産において遺伝子組換えにより様々な酵素やタンパク質を発現させることはもはや必須となりつつあるが、どの遺伝子を発現または破壊すれば生産量が大きく向上するかは、ごく一部の遺伝子を除いてまだほとんど不明である。スマートセル開発においては、目的化合物の生産量を向上できる改変ポイントとなる候補遺伝子をいかにして見出すかが鍵となり、情報解析による合理的な代謝デザインとともに、in silicoでは推定できない有効遺伝子を探索するアプローチも組み合わせていくことが重要である。

 本研究では、物質生産の宿主として最もよく利用されている大腸菌と出芽酵母を対象に、プラスミドDNAをセミオートメーションで導入できる自動形質転換システム(HTP微生物構築技術)と、生産量を高速に評価できる標的化合物に応じた分析メソッド(HTP微生物評価技術)を開発した。本手法により、一度に数千株以上の形質転換体を作出して、目的化合物の生産量を測定することが可能となった。

 本技術を用いることで、大腸菌や酵母の一遺伝子破壊株ライブラリ(約4,000~5,000株の遺伝子破壊株コレクション)に外来代謝経路遺伝子を発現するプラスミドDNAを自動で導入し、個別の形質転換体の生産性データを網羅的に取得できるようになった。これにより、in silicoだけでは予測の難しかった有効な遺伝子破壊も見いだすことが可能となった。また、取得した網羅的な分析結果は、情報解析モデルを高度化する上でも重要なデータとなる。

 本技術は、自動DNA合成技術と組み合わせることで、in silicoによりデザインされた任意のDNA配列候補を網羅的に分析することも可能となるため、スマートセル開発のコアとなるDesign-Build-Test-Learn (DBTL) サイクルを高速に回す上で重要な役割を果たす。

産業界などへのアピールポイント

大腸菌および酵母において、数千株以上の遺伝子組換え体を一気に作出することが可能となった。標的とする化合物に対してHTP評価系を構築することができれば、作出したすべての形質転換体の生産性データを取得することができる。これにより、従来のランダムな変異育種では成し得なかった、意図的にデザインしたDNA配列について膨大な数のバリエーションを評価することが可能となった。本技術は、使い方次第で様々な有効遺伝子や組み合わせも迅速に探索できる無限の可能性を秘めた技術であり、学術的に意味のある遺伝子を同定できるだけでなく、産業利用においても特許化が可能な新たな有効遺伝子を探索する上でも威力を発揮する。

参考文献

石井純ら:「微生物を用いた物質生産とハイスループット微生物構築技術」,スマートセルインダストリー(第1編 第2章 第1節), CMC出版 (2018)

石井純: 「微生物での発酵生産と実験の自動化」,新型コロナで変わる時代の実験自動化・遠隔化,羊土社(2021年1月号,第39巻,第1号,8-12)

最終更新日:2021年3月 4日 19:25