技術活用事例

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ω-3系多価不飽和脂肪酸含有油脂の生産性向上

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使用した技術

発現制御ネットワーク構築、文献等からの知識の抽出・学習(機械学習を活用した酵素提案スマートセル設計支援知識ベース)、長鎖DNA合成高精度メタボローム解析定量ターゲットプロテオーム

実施機関

新潟薬科大学、不二製油グループ本社(株)、(国研)産業技術総合研究所、(国研)理化学研究所、長岡技術科学大学、大阪大学、京都大学、九州大学、神戸大学

研究開発のゴール

ω-3系脂肪酸を高効率で合成できる新規油脂酵母を開発し、魚の乱獲等で需要に対する供給が滞っているω-3系脂肪酸市場への供給を行う。

目的

多価不飽和脂肪酸のω-3系脂肪酸は、人間の生体内では合成できないため、必須脂肪酸として知られており、脳・網膜の働きを保つのに必須である。ω-3系脂肪酸を多く含む食材は一部の植物油や魚油に限られるため、意識して摂取する必要がある。また、ω-3系脂肪酸のα-リノレン酸は、動脈硬化予防効果を有するエイコサペンタエン酸 (EPA) や認知症予防効果を有するドコサヘキサエン酸 (DHA) へ変換されることもあり、世界各国で摂取目安量が決められ、積極的に摂取することが求められている。新興国を中心にω-3系脂肪酸の需要が急増して世界市場規模は拡大しているが、ω-3系脂肪酸の原料である魚油は、乱獲により供給量が減少し続けており、需要を賄うだけの供給量を将来確保できない可能性がある。海外では、微細藻類による商業生産が行われ始めているが、生産効率が悪く、価格が魚油由来に比べ数倍と割高であり、市場に十分供給できるものではない。 このような状況を考慮して、我々は、細胞内に乾燥菌体重量の70%以上の油脂を高蓄積できる潜在能力の高い油脂酵母Lipomyces starkeyiに注目し、ω-3系脂肪酸高含有油脂を生産できる新規な油脂酵母の構築を目指している。

結果・成果

①脂肪酸組成の改変(ω-3系脂肪酸含有率の向上)
ゲノム解析等から油脂酵母L. starkeyiはω-3系脂肪酸としてα-リノレン酸までしか合成できない。我々はEPA等のα-リノレン酸よりも不飽和度の高いω-3系多価不飽和脂肪酸を油脂酵母で合成させるため、スマートセル基盤技術の「文献等からの知識の抽出・学習技術」及び「長鎖DNA合成技術」を活用して、ω-3系多価不飽和脂肪酸合成経路の導入、続いてω-3系脂肪酸含有率を向上させるための酵素選択・改変を行い、油脂酵母L. starkeyiでω-3系多価不飽和脂肪酸の生産を可能にし、その含有率を向上させた。

②油脂生産性の向上(油脂量、対糖油脂収率の向上)
油脂生産性の向上においては、油脂蓄積変異株を取得し1, 2)、オーミクス解析(「高精度メタボローム解析技術」、「定量ターゲットプロテオーム解析技術」)を行うことで得られたデータを活用したスマートセル基盤技術の「発現制御ネットワーク構築技術」で油脂生産ネットワークを構築し、油脂生産を制御する新規因子を見いだした。また、その因子の活用により油脂生産性を約2倍向上させることに成功した。また、野生株と油脂蓄積変異株の比較ゲノム解析により原因遺伝子を同定した結果、上記とは異なる油脂生産を制御する新規因子を見いだし、その因子の活用により油脂生産性を約4倍向上させることに成功した。

この研究で得られたデータ

プロジェクト(ω-3系多価不飽和脂肪酸含有油脂の生産性向上による有効性検証
 - NITE生物資源データプラットフォーム(DBRP) から提供(制限公開データを含みます)

関連特許

特開2019-146543

最終更新日:2022年11月14日 12:38