技術活用事例

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希少アミノ酸エルゴチオネイン高生産スマートセルの開発

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使用した技術

代謝経路設計技術高精度メタボローム解析HTPトランスクリプトーム解析技術酵素改変設計技術導入遺伝子配列設計技術HTP微生物構築・評価技術輸送体探索技術

実施機関

長瀬産業(株)、(国研)理化学研究所、神戸大学、(国研)産業技術総合研究所、奈良先端科学技術大学院大学、東北大学

研究開発のゴール

エルゴチオネイン(EGT)は、キノコなどに微量含まれる抗酸化能に優れた天然アミノ酸であり、食品、化粧品、医薬品などの幅広い分野での利用が期待されている。既存の抽出法や有機合成法は、コストや環境負荷が高く、EGT普及の課題となっている。安価かつ高純度なEGTを提供可能なバイオプロセスを確立し、市場への普及を目指す。

目的

 EGTはキノコなどに微量含まれる抗酸化能に優れた天然アミノ酸で、食品、化粧品、医薬品等の幅広い分野での利用が期待されている1)。加齢研究の第一人者であるカリフォルニア大学バークレー校のBruce Ames名誉教授は「EGTは『長寿ビタミン』と呼ばれる化合物群の1つであり、長期的な健康には必要で食事から摂取しなければならないため、ビタミンの新しいグループとして位置付けよう」と提案している2)。最近の研究で、EGTは活性酸素種を消去し、加齢によって起こるしわや、虚弱体質、認知機能低下などの発現を遅らせる可能性があることが示されている。また、体内EGTレベルの低下と、軽度認知障害、パーキンソン病、白内障、心血管疾患との間には相関性があることも示されている。
 EGTはキノコなどの一部の微生物によってのみ作られる。一方、2005年に、ヒトの体には脳、皮膚、目、肝臓といった酸化的ストレスや炎症の影響を受けやすい組織や細胞が、EGTを取り込んで蓄積する機構(輸送体)が発見された3)。この輸送体の発見と上記の機能性の解明により、近年EGTの利用への期待が高まっている。
 既存のEGTの製法としては、天然物からの抽出法、化学合成法などが知られている。しかし、抽出法では天然物中のEGTが微量であること、化学合成法では環境負荷が大きいことなどから安価で環境にやさしい製造方法が確立されておらず、EGTの普及の課題となっている。こうした背景から、ナガセR&Dセンターでは、2015年より微生物を用いた発酵法でEGTを安定供給できる環境配慮型バイオ生産プロセスの開発を開始した。

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図1. 本研究開発の目的

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図2. エルゴチオネインに期待される領域

結果・成果

 2016年度からは、NEDOのスマートセルプロジェクトに参画し「代謝経路設計技術」、「高精度メタボローム解析技術」、「HTPトランスクリプトーム解析技術」、「酵素改変設計技術」、「導入遺伝子配列設計技術」、「HTP微生物構築・評価技術」、「輸送体探索技術」という6種類のスマートセル基盤技術を活用し、微生物細胞のEGT生産能力向上を目指してきた。これまでに、各スマートセル技術の活用により細胞内の生産反応の最適化に成功したことで、研究開始時の約1,000倍と飛躍的な生産性の向上を実現した。
 現在は、開発した生産菌株を活用した培養プロセスのスケールアップを進め、さらにこれまで当社で独自に開発してきた高度精製技術と組み合わせることで、安価かつ高純度なEGTを提供可能なバイオプロセスの早期の完成を目指している。

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図3.本研究開発の流れ

参考文献

1) I. K. Cheah: Ergothioneine; antioxidant poteitial, physiological function and role in disease, Biochimica et Biophysica Acta, 1822, 784-793(2012)
2) B. N. Ames: Prolonging healthy aging: longevity vitamins and proteins, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 115, 10836-10844(2018)
3) D. Grundemann et al.: Discovery of the ergothioneine transporter, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 5256–5261(2005)

最終更新日:2022年11月14日 12:48